海外の上場企業における近年の最重要問題として、アクティビストへの対処があります。アクティビストの脅威にさらされた日本企業は、従来は少数でしたが、世界的なアクティビスト増加傾向のなか、今後は増加すると考えられます。

アクティビストの世界的な増加:情報提供会社アクティビストインサイト社によると、2016年上期、全世界で公にアクティビストの標的になった企業数は17%増の473社で、うちおよそ63%で要求が受け入れられました。2016年6月時点でアクティビストの投資額は約29兆3,150億円1に上っています。

米国での増加傾向:米国企業では、2016年8月4日までに、前年同期(214社)2とほぼ同水準の207社に対しアクティビストによるキャンペーンが実施されました。

日本への到来:アクティビストインサイト社によると、2016年7月までの7カ月間でアクティビストの標的にされた日本企業は、前年の8社から13社になりました。その中には、サード・ポイントによるセブン&アイ・ホールディングス、ファナック、スズキ自動車、IHI、ソニーへの投資やグラウカス・リサーチ・グループ(GRG)による伊藤忠商事への投資等、注目すべきケースも見られました。

日本でも増加見込み:日本にはアクティビストのキャンペーンを助長する要素があり、今後件数が増加すると見られています。
✓ アクティビズムを後押しする枠組み:213の機関投資家が日本版スチュワードシップ・コードの受入れを表明(2016年9月現在)し、機関投資家と日本企業のエンゲージメントが増加傾向にあること、コーポレートガバナンス・コードにより投資家の信頼が高まったこと、JPX日経400インデックスにより日本企業のROEが明らかになったこと
✓ 株主構成の変化:外国人株主の増加、持ち合い株式の減少等
✓ 企業業績の低迷:過剰なキャッシュの保有:資本コスト以下の株主還元、国際水準より低いROE、非主力事業の継続、帳簿価格以下の取引を行っている企業の割合等

日本におけるアクティビストキャンペーン:
サード・ポイント社によるキャンペーンに対する報道は概ね好意的でした。一方でGRG社は、伊藤忠商事の財務諸表に誤った情報が含まれていると主張し、同社に反対する姿勢を取りました。GRG社は同社の株式に対し「ストロングセル(強い売り)」を推奨し、株価は50%程度下落すると示唆しました。また、GRG社は調査のために独立した委員会を指名することを提言しました3

アクティビズムが企業価値に与える影響:アクティビスト投資家が企業価値に与える影響には、2つの考え方があります。

好ましいアクティビズム:コロンビア大学ビジネススクールの調査報告書は、「批判的なアクティビストの介入により、長期的な業績を犠牲にして短期的な利益が求められるという証拠は見出せない4」としています。
 このグループに属するアクティビストは、よいコーポレートガバナンスや長期的な戦略の重視、中長期的に企業価値を向上させる企業改革等を望む、好ましい意図をもつアクティビストと考えられます。
好ましくないアクティビズム:コロンビア大学・ロー・アンド・エコノミクス研究報告書は、次のように述べています。「アクティビスト・ヘッジファンドによるエンゲージメントは重要な外部性を生み出している。標的となった企業と、標的にはならなかったもののアクティビストが投資を思い留まっている企業の双方において、長期投資(特に調査研究投資)が大幅に縮小した5」。
 この分野のアクティビストは通常、わずかな株式を保有し、自社株買いや増配といった方法で短期的・中期的に株価を上昇させる方法を助言します。GRG社のような空売りをするファンドは、伊藤忠商事の場合のように、彼らの株主への配当を確保しようと試みます。

アクティビズムに関するセルフチェックリスト:
✓ 企業の業績基準。競合他社に比較したときの売上、コスト、収益性、成長、資本コスト、ROE、ROA等
✓ 現在の株式の時価総額。競合他社との比較
✓ 株価がアンダーパフォームしている場合の対策

アクティビストに対応するための提案:
✓ 好意的で長期的な意図をもつ投資家から、短期目的の投資家までアクティビストを連続的に分類
✓ 株主構成の分析結果に基づき、アクティビストの視点で自社の脆弱性を分析
✓ 分析の後、自社のアクティビストへの最も効果的な対応策を検討

日本企業へのヒント:
日本でもアクティビストキャンペーンの件数は増加すると見られています。日本企業は、自社の強みと弱みを正しく理解し、適切な投資ストーリーや、投資家の懸念に対し十分かつ信頼を得られる回答を準備すべきです。
 特に、長期志向のアクティビスト投資家は、マネジメントがこれまで耳にしたことがない方法で、業績や戦略について価値ある評価を示すことでしょう。アクティビストへの対応策を準備すること、それはすなわち、IRプログラムにより一層注力すること、既存投資家と潜在投資家の双方へ積極的にアプローチすることが必要ということにほかなりません。


1) www.activistinsight.com US$1.00=¥110で換算
2) https://www.sharkrepellent.net/
3) https://glaucusresearch.com
4) レブチャク、ルシアンA・ブレイヴ、アーロン・ジァン、ウェイ著、The Long-Term Effects of Hedge Fund Activism(ヘッジ・ファンド・アクティビズムの長期的な影響)(2015年6月)、ハーバード・ロー・スクール・ジョンM・オーリン・センター討議資料 No.802; コロンビア・ロー・レビュー; Vol.115, 2015年、1085-1156ページ; コロンビア・ビジネス・スクール研究論文 No.13-66
5) コーヒー、ジョンC・パリア、ダリウス著、The Wolf at the Door: The Impact of Hedge Fund Activism on Corporate Governance (戸口の狼: 企業ガバナンスへのヘッジ・ファンド・アクティビズムの影響) (2015年4月)、 コロンビア・ロー・アンド・エコノミクス調査報告書 No. 521

Book Review

足達 英一郎、村上 芽、橋爪 麻紀子 著『投資家と企業のためのESG読本』(日経BP社、2016)
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環境(E:Environment)、社会(S:Society)、ガバナンス(G:Governance)の3つの要素を示すESGが注目される昨今、本書では現代におけるESGについての解説が網羅的に行われている。ESG投資とはそもそも何かについて、ESGという言葉を生み出した国連について、SRI・CSR・サステナビリティとの違いから解説された後、近年どういった流れにてESGが投資手法、概念として注目され、広がってきたかについてわかりやすく解説がなされている。また特徴的なのは、投資家がESGの情報をどういった着眼点で重要視しているかについて、「コーポレートガバナンスを重視する投資家」、「社会課題起点のキャッシュフローを重視する投資家」、「ダウンサイドリスク回避を重視する投資家」、「ユニバーサルオーナーシップを重視する投資家」の4つの類型に分けて解説がなされている点である。投資家視点におけるESG投資について、類型別に述べられていることで現代におけるESGの実態が理解しやすい。現在のESGについてトレンドを捉える上で、是非一読したい一冊である。

編集後記

さまざまな投資主体によって市場と企業経営の健全性が保たれる、ということですね。(り)/アクティビストへの対応も、結局はIRプログラムへ注力することが王道だとわかった。(の)/まずは相手を知り、自社を知る。戦略的なIR活動の実践がより重要になっている。(い)/必ずしも「アクティビスト=短期」とは限らないという報告書は面白いと感じました。(あ)/好ましいアクティビズムと好ましくないアクティビズムの分類が興味深いです。(や)

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