日本取引所グループは、本年1月6日の大発会から東京証券取引所に新たな株価指数「JPX日経インデックス400」を導入しました。

「JPX日経インデックス400」が市場と企業経営に及ぼす影響

東証の代表的な株価指数と言えば日経平均株価とTOPIXがよく知られていますが、これらは時価総額や出来高など市場流動性や企業の規模を重視した指数です。これに対して新指数は、資本の効率性や株主(投資家)を意識した経営観点など、グローバルな投資基準の立場に立った銘柄構成となっています。銘柄選定にあたっては、①流動性・規模(売買代金、時価総額)、②収益性(ROE、営業利益)、③経営観点(コーポレートガバナンス、国際会計基準、英文開示)を基準にスコア化し、400社(東証1部388社、同2部1社、マザーズ1社、JASDAQ10社。毎年8月に一部入れ替え)を決定しました。東証は、この400社を自ら「投資者にとって投資魅力の高い会社」とうたっています。JPXの積極的意志が感じられるキャッチフレーズですが、この指数はどのような影響を市場と企業経営に与えるでしょうか。

新指数はグローバルな投資家の目線をかなり意識して、収益性などファンダメンタルインデックスの要素を一部組み込み、独立した社外取締役の選任(2人以上)、国際会計基準(IFRS)の採用(または採用予定)、英文資料開示などをより重要視しました。この結果、同指数はグローバルな投資基準に求められる諸条件を満たすことになり、企業に持続的な価値向上を促す役割も期待できます。

JPX日経インデックス400に連動する投資信託や上場投資信託(ETF)のファンド残高はすでに1,800億円を上回っており、同指数連動の先物取引もこの11月に大阪取引所でスタートします。また120兆円の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、4月に日本株のインデックス運用のベンチマーク(運用指標)にこの指数を新たに採用し、運用を始めています。日本企業の魅力を内外にアピールし株式市場を活性化する切り札になるかどうか、この新指数に注目したいと思います。

次に、日経インデックス400が今後、市場とりわけ企業にどのような影響を与えるのか、そして企業は何をなすべきなのか、を考えてみます。

上場企業への影響と対応

企業側では、ROEの高低にかかわらず企業価値向上をめざし資本効率を高めていく動きがすでに出始めており、将来はさらに鮮明になると思われます。具体的には配当性向の目標を引き上げたり、自己株式の取得の実施などです。400銘柄から脱落させない、新たに選定されたいという競争が市場活性化につながる可能性は十分にあると言えるでしょう。

このような前提に基づき、企業側は資本効率を意識した経営が求められていることをまず認識すべきでしょう。ROEが資本の効率性を測る重要な経営指標であるにもかかわらず、日本企業のROEは欧米企業と比較して極端に低いのが実情です。日本の経営者は、売上高、利益などの規模指標をより重要視する傾向があります。生命保険協会調査1(2013年度)によれば、米国企業のROEが15.8%であるのに対して日本は5.3%です。中期経営計画での数値目標の公表状況は、売上高・利益(同伸び率)が60%以上に達しているのに対し、ROEは35.8%に過ぎません。

一方、投資家が経営目標として望む指標は、ROEが90.8%と最大であり、双方のギャップはかなり開いています。また外国人投資家は、ほとんどがグローバルファンドで日本株を組み入れており、グローバルに企業を分析しているため、ROEも世界の企業群との競争になっています。日本企業のROEは上昇基調にあるものの、まだ改善の余地が大きいと言わざるを得ません。一部の企業を除き、日本の経営陣は資本コストに対する意識が国際的に見てまだ低く、ROEが平均的な資本コストといわれる6~7%を下回っている日本の上場企業は、過半に達しているとのデータもあります。これからはますますROEを基軸とした企業価値経営が評価されるようになってきます。それを支える両輪がコーポレートガバナンスと情報開示(ディスクローズ)です。東証は、独立社外取締役とROEとの相関について、取締役会における独立社外取締役の比率が高くなるほどROEも上昇すると述べています(過半数を占める場合はROE12.75%、三分の一から半数は4.67%、それ以下は1.17%-2012年度)。同様に、ゴールドマン・サックスの調査(IRInsight前号参照)でも、優れたガバナンスを発揮する企業はROEが高いことを示しています。上場企業の経営者はROEを経営の中核指標として積極的にコミットする必要があると思います。

8月7日に日本取引所グループは、JPX日経インデックス400構成銘柄の定期入替を発表しました2。8月29日から実施されます。今回は、合計31銘柄が入れ替えの対象となりました。収益性指標が最重要視されており、2013年度の営業利益が大幅に改善(必然的に過去3年間の平均ROEが大幅に改善)した企業が新規採用銘柄の特徴です。JPX日経インデックス400のプレゼンスが強まるにつれ、上場企業にはROE向上に向けた一層のプレッシャーがかかるでしょう。

新指数「JPX日経インデックス400」の採用と並行して、機関投資家が企業との対話を重ね企業側に経営改善を促す行動基準「日本版スチュワードシップ・コード」が導入されました(IR Insight前号参照)。IRご担当の皆様にとっても「株主・投資家との対話の充実」「ディスクローズの充実・迅速・公平」がますます重要になります。インベスター・インパクトは、企業側の立場に立ちIR活動のご支援を引き続き行ってまいります。

執筆 シニア・コンサルタント 郷右近 養一

1 http://www.seiho.or.jp/info/news/2014/pdf/20140418_2.pdf