インベスター・インパクトでは、日本の主要な企業のIRプログラム策定をはじめ、アニュアルレポート、統合報告書といった開示ツールの制作を中心とするサービスを提供している。一連のサービスの提供を通じて、当社は企業の開示の動向を把握しており、クライアントから国内外の同業他社の開示状況との比較を依頼されたり、ベストプラクティスについてアドバイスを求められたりすることがある。本号では、最近の開示の主なトレンドを振り返り、批判的な検証を行い、提言を試みる。

重要性を増すコーポレート・ガバナンス情報の開示

最近の日本における開示の1つの重要なトレンドとして、企業のコーポレート・ガバナンスへの関心の高まりとコーポレート・ガバナンスに関する情報の増大が挙げられる。その理由としては、「コーポレートガバナンス・コード」の導入や海外投資家の影響、日本企業の稼ぐ力の強化を目的にコーポレート・ガバナンスの重要性を強調する「アベノミクス」の存在などが挙げられるが、これまでにどのような成果があったのだろうか。

コーポレートガバナンス・コードが求めるものと方向性

長期間にわたる専門家やパブリックコメントによる審議を見ると、日本のコーポレート・ガバナンスには明確なコンセプトと方向性が示されたと言える。

「本コードにおいて、『コーポレートガバナンス』とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
…(中略)…(本コード)が適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。1

日本のコーポレート・ガバナンスの価値についてコンセンサスが形成されたと言えるだろう。

コーポレート・ガバナンスに関するKPIへの影響

コーポレート・ガバナンス報告書及び一般社団法人日本取締役協会(JACD)による調査報告書2によると、東京証券取引所第一部上場の企業のうち、2015年7月時点で少なくとも1名の社外取締役を選任している企業は昨年比20%増の94.7%となっている。また、東京証券取引所の定める独立取締役を1名以上選任している企業は、約26%増の87.7%となっており、社外取締役および独立取締役の人数が上昇傾向にあることは、コーポレート・ガバナンスへの関心の高まりを示すものといえる。東京証券取引所の上場企業3,464社の社外取締役・独立取締役の人数をみると、社外取締役は2014年から2015年の間に1,794名増加し5,563名に、独立役員は1,837名増加し4,155名となった。

当社が行ったインタビューによると、日本企業に投資を行う外国人株主は、コーポレート・ガバナンスのベストプラクティスを支持しており、外国人投資家がコーポレート・ガバナンスに与える影響には注目すべきものがある。2015年3月期現在の上場企業3,565社における外国人株主の比率は31.7%へと上昇している。その中でも特に注目すべきなのは、JACDの日本企業調査によれば、外国人株主比率が10%未満の企業では18.3%の企業が独立取締役を設置していないのに対し、30%を超える企業では独立社外取締役を設置していない企業は6.2%にすぎないことである。

コーポレート・ガバナンスが日本企業の情報開示に与える影響

これまでのアニュアルレポートやウェブサイトのコーポレート・ガバナンスのセクションは簡潔に記載されていた。2010年ごろの記載は、2ページ程度の長さに留まるのが一般的だったが、2015年においては、自社のコーポレート・ガバナンス体制の説明に10ページもの分量を割く企業も見られるようになった。このように、日本ではコーポレート・ガバナンス体制の枠組みをより詳細に説明しようとする傾向が見てとれるといってよいだろう。
2010年頃のコーポレート・ガバナンスのセクションでは、基本的な事項のみ記載することが一般的であった。記載される主な内容は企業のガバナンスへの考え方(経営の監督と業務執行の分離など)やガバナンス体制(取締役会や執行役員会、ガバナンス委員会など)、アドバイザリーコミッティーの活動状況などであった。

しかし、最近では、ガバナンスの枠組みにおけるそれぞれの役割などについてより詳細な説明がなされるようになってきている。また、近年では、コーポレート・ガバナンス体制(監査役やガバナンス委員会設置による取組みなど)の説明や、写真・経歴の掲載などを通じたより詳細な取締役の紹介、取締役会への出席状況、役員報酬、社外取締役(独立取締役)の選任理由、更に、恐らく最も重要な情報として、社外取締役や独立取締役の目から見たガバナンスやそれに対する自らの貢献、改善に向けた提言などを盛り込んだインタビュー記事も掲載されるようになってきている。

マネジメントの対応の変化

2015年に日本版コーポレートガバナンス・コードが導入されるまで、特に2010年以前は、社外取締役や独立取締役の選任やコーポレート・ガバナンスに関する積極的な情報開示に対し若干の抵抗があった。その背景には、企業経営はその企業・業界での豊富な経験がなければなしえず、社外の人間は企業経営に貢献できないばかりか、迅速な意思決定の障害にさえなり得るという強い懸念があった。当社のコンサルティングでは、コーポレート・ガバナンスに関する情報開示拡充への提言や独立取締役の選任に関する質問は、実施が難しいという理由で否定的に受け止められることが多い。また、財務注記に掲載されるリスクマネジメント情報について、「紋切型」ではないより充実した内容へ改善する提案も同様に、好意的に受け止められてはいない。

コーポレートガバナンス・コードと「日本再興戦略」下での日本企業の稼ぐ力を取り戻すこととの関連は、一段と速い速度で強まっていると考えられる。JACDの会長は2015年の挨拶で、「できるだけ監督と執行を分離する旨の内容が記載されたことは、コーポレート・ガバナンスの考え方、理解において、大変大きな進歩だと考えられます」と述べている。

社外取締役インタビューの深耕

最近では、多くの企業が開示資料に独立取締役のインタビューを掲載するようになってきた。インタビュー記事を分析したり、記事作成の支援をしたりすると、インタビューには多くの特徴があることがわかる。その1つは、独立取締役が、自らの考えを他の取締役会メンバーに対してのみならず、投資家を中心とした各ステークホルダーとも積極的に共有することが可能な点である。もう1つの特徴は、社外取締役が取締役会に社外の視点を導入するという自らの役割に集中して取り組める点である。インタビューへの回答を通じ、独立取締役は、自らの責任領域に関する取り組みを経営陣の監督に活かすことができる。

インタビュー記事をコーポレート・ガバナンスセクションの原稿としてまとめる際に問題になることは、どのような質問を行うべきか、役員やIRオフィサーがどの範囲まで回答すべきかという点である。以下に質問の事例を取り上げる。

  • 独立取締役に就任されましたが、ご自身の役割をどのように捉えていますか。また、その役割を遂行するにあたってのお考えや計画はどのようなものでしょうか。
  • 稼ぐ力の回復や事業のグローバル化は多くの日本企業が直面する課題です。このような課題に対し、どのように取り組まれれていますか。
  • 独立取締役としての役割を果たす上で、ご自身のビジネス等でのご経験がどのような形で役に立つと考えていますか。
  • 中期的な株主価値や企業価値を高めるために、独立取締役にどのような役割が期待されているとお考えでしょうか。

今後の課題

コーポレート・ガバナンスや経営の透明性は以前にも増して急速に進捗し、グローバルスタンダードに近づいているが、JACDの指摘するように、「コーポレート・ガバナンスが機能するよう、…(中略)…なすべきことは、山積しており」ゴールまではまだ時間がかかるものと思われる。今後の課題としては、取締役会による監督と業務執行の分離、独立取締役や監査・監督委員会の役割の明確化などが挙げられるだろう。

コーポレート・ガバナンスの進展は決して簡単な道のりではない。スポーツになぞらえつつ説明してみよう。スポーツにおいて公平な判断を下すために審判が必要とされるように、業務執行を担う執行役員にもいわば審判役としての独立取締役が必要となる。独立取締役は執行役員の業績を客観的な観点から綿密にレビューする。今日のほとんどの日本企業では、取締役会における独立取締役の割合は高くない(事実、直近のデータによると、社外取締役の占める割合は11分の2にすぎない)。多くの場合、社内取締役は執行役員も兼任しており、スポーツ用語でいう「Call the shot」(采配を振るう)状態にある。稼ぐ力の向上とマーケットからの高い評価を重視するのならば、コーポレート・ガバナンスの開示もその優先度を高くあげて取り組むべきである。

IRの機能とコーポレート・ガバナンス情報の開示

コーポレート・ガバナンス情報の開示への注目が高まるにつれ、企業サイドもコーポレート・ガバナンスの質が自社株式の市場価値に影響を及ぼすという認識を新たにした。継続的な企業価値向上を図るため、株主や投資家に対して、①業務の執行と監督機能の分離、②取締役会に対する監査、③独立取締役の役割の明確化に向けて会社が前進していることを常に伝え続けることが必要であろう。

日本企業への提言(インプリケーション)

上記のような分析に基づき、日本企業は以下のような行動を取るべきであると提言したい。

  • コーポレートガバナンス・コードが実施された今日、海外機関投資家は、日本企業が企業戦略の焦点の明確化や企業価値の増大、株価ボラティリティの軽減をどの程度実現するのかについて非常に興味を抱き、注目もしている。
  • 企業は、社外取締役や社外監査役が忌憚なく重要な質問や洞察、推奨事項を提示することでもたらされる有効性を最大化する必要がある。社外取締役や社外監査役の評価は、毎年、四半期ごと、あるいは取締役会ごとなど持続的に行われるべきであり、そのことが、持続的なエンゲージメントや実行的な議論、パフォーマンスへの集中の促進に繋がる。
  • 決まり文句のような文章から脱却することが戦略的なコーポレート・ガバナンスに関する情報開示の質を高めることに貢献する。統合報告書やアニュアルレポートに記載されたガバナンスフレームワークにおける各パートの役割や社外取締役・社外監査役の選任理由に対しての説得力ある情報、社外取締役・社外監査役自身の示唆に富んだ洞察などがまさにそれにあたる。

執筆 代表取締役会長 C・テイト・ラトクリフ

1 http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/code.pdf
2 http://www.jacd.jp/news/odid/cgreport.pdf