みさき投資株式会社
代表取締役社長
中神康議様

大学卒業直後から約20年弱経営コンサルティングに従事した経験を生かし、2005年からエンゲージメント投資を開始。2013年にみさき投資株式会社を設立。数々のエンゲージメント成功事例を生み出す。近著に『投資される経営 売買される経営』など。

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「働く株主」としてエンゲージメント投資を行い、長期にわたって事業戦略や経営改革を支援するみさき投資株式会社。今号では、エンゲージメントにおける取り組みや、企業と投資家のあるべき関係について伺いました。

Q.投資先企業の選定基準をお教えください。

A.われわれは、市場の評価が本質的価値より低い企業に対して、長期にわたる投資を行い、投資対象企業の絶対価値を上げることに貢献したいと考えています。相対比較ではないので、例えばPERが何倍とか、次の四半期のEPSがなどということは、気になりません。対象企業が、どの程度頑健な障壁に支えられ、創出されるキャッシュフローがどうなっており、絶対価値はどうなのか、それに対して市場評価はどうなっているかということです。投資先企業も、「持続的に成長する会社か」「われわれが価値向上に貢献できるか」という視点で選んでおり、具体的には「b」「p」「m」の3つの基準で判断しています。

まず、ビジネスがしっかりしていないと安心して長期投資できないので、ビジネスのクオリティーは高いか、障壁はあるかというのが最初の選定基準「b」になります。次に、どんなビジネスも人(p)がいかに経営しているか、に尽きるところがあるので、「p」が優れている会社に投資をしたいというのが2番目の基準になります。

さらに、われわれは「働く株主」として本源価値を上げることに貢献したいと思っているので、bもpもいいけれど、経営手腕や経営手法(m)を磨けばもっとよくなる会社を選ぶというのが3番目の基準です。

長期投資は対象企業を熟知する必要があり、投資先企業の選定に当たっては、最初の段階で、例えば、30年ぐらいの業績を調査するほか、北米などで出されている競合企業のアニュアルリポートを全て読みます。加えて、投資先企業のアニュアルリポート、有価証券報告書、社史もチェックします。

Q.開示資料のチェックはどのような観点でおこなわれるのでしょうか。

A.特定の項目にこだわるわけではありませんが、行間からにじみ出てくるものがあり、読めば読むほど会社の個性が伝わってくるところがあります。

アニュアルリポートや有価証券報告書は特に美辞麗句がちりばめられたものになる可能性が高いと思いますが、もっと泥くさい、自分の言葉やこだわりのある言葉が使われていると、その会社のこだわりが見えてきます。経営とは細かいディテールにこだわったものであると同時に、コンセプチュアル、概念的なものでもあると思います。開示資料で言葉にこだわっている企業は、他と違うことを考えていることが伝わるので、そういうところをよく読んでいます。有価証券報告書は10年を単位として調べています。

社史では、ビジネス(b)のオリジナリティやその会社が作られた経緯が記載されているので、対象企業のDNAが理解できます。また、会社の歴史が50年、70年と経ていくにつれ、マネジメントの変遷も見ることができます。例えば「ずっと技術系の人が社長になる会社」といったことです。さらに社史では、人(p)に関する過去の経緯やカルチャーの源流が見え、mについては、例えば非常に早い時期から店頭公開をするというパブリックカンパニーマインドが見えたりします。

Q.企業と投資家の理想的な関係について、具体的なエンゲージメントにおける取り組みを交えつつお聞かせください。

A.株主はbやpに影響は与えられませんが、業種横断的、国境横断的な性質を持つ経営のクオリティー(m)についてはかなり貢献できると思っています。例えば、ピジョンという会社は、少子化によって成長に限界があると評価されていました。しかし、人口の増加する中国やアジアにおいても、そういえるでしょうか。そこで海外での成長戦略を一緒にやりましょうと提案した結果、海外売上比率が15%ぐらいしかなかったものが現在50%くらいになっていますし、時価総額も10倍以上になりました。

経営者と投資家はもっと学び合えると思っています。経済のエンジンは企業で、企業のエンジンは経営なので、経営こそが経済のエンジンです。企業を成長させていくために、どのように資金を投資するか。私がやっていることは、昔の銀行がやっていたことに近いと思うのですが、それを投資家の立場でやりたい。

「働く株主」とはそういう意味かなと考えています。経営に少しでも貢献できるような投資家でありたいということですね。

■インタビューを終えて

みさき投資の事例が、ハーバード大学のビジネススクールで取り上げられ、講義をなさると伺いました。企業に対して、昔メインバンクが行っていたことを、投資家として行い、企業成長を実現されてゆくのだ、とのお話しは、とても印象に残るものでした。著書『投資される経営 売買される経営』の中でも触れられている「みさきの公理®」で選別される企業は15社とか。厳選投資で企業成長を支援されようとの情熱に強い感銘を受けました。

Book Review

名和高司著『成長企業の法則 世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016)

稼ぐ力を取り戻す―この言葉を最大のメッセージとした安倍政権の成長戦略。しかし、しっかりとした中身の充実がなければ本当の成長はない、と考える著者は本書を通して「稼ぐ力とは何か」を語っている。

本書では、2000年から2014年までのデータを基に、売上高成長率、企業価値(株価)成長率、平均利益率の3つの指標を用いて21世紀の成長企業=Global Growth Giants(G企業)を抽出し、それら企業の共通する項目を「LEAP(跳躍)」というフレームワークに落とし込んでいる。著者によれば、これらの企業は「堅牢性」や「しぶとさ」といった静的な特性と「変容性」、「身軽さ」といった動的な特性を持ち、これらを「事業モデル」、「コアコンピタンス」、「企業DNA」、「志」というレベルで兼ね備えているとしている。ランキング内外の企業をケーススタディに取り上げつつ語られる本書は、400ページを超える大作ながら読みやすく、日本企業がグローバルで存在感を示すためのヒントが詰まった一冊である。

編集後記

メインバンクが担っていた役割を、投資家として担おうという意気込みと情熱が伝わってくるインタビューでした(す)/中神社長のインタビューでは、事前の詳細な企業調査に圧倒されました(の)/長期投資家の考え方の一例を知るよい機会になりました(あ)/「働く株主」という言葉が、投資家としての姿勢を表現していて印象的でした(や)/経営に貢献できる投資家という視点が興味深かった(ひ)/エンゲージメントにおける具体的事例が印象的でした(く)

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