インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ
エグゼクティブ・ディレクター
石田猛行様

コーポレートガバナンス・コードが適用されて1年経過しました。コーポレートガバナンスを巡る企業・機関投資家の対応にどのような変化が生じたか、今後どのような方向に向かうべきか、議決権行使助言会社の視点で問題意識を掘り下げます。

Q: スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードの適用を受け企業の貴社に対する対応に変化は生じましたか?

A: 日本的な会社の方がよりガバナンスコードの影響を受けていると思います。上場企業はガバナンスコードに規定されている内容を取締役会で話さなければならなくなっており、その意味でコーポレートガバナンス・コードの意義は深いといえます。

来社される企業との話の質が変わり、以前は話が噛み合わなかった企業とも最近は議論がしやすくなってきました。株式持ち合いに関する議論もできますし、買収防衛策をやめるという会社も増えてきました。

取締役や監査役の選任議案について、取締役や監査役の独立性をどう見ますか、という質問を多く受けますが、事前にわれわれが賛成、反対を伝えることはありません。そこであくまで一般論をお話しします。企業の総務や株主総会担当の方は、招集通知の表現方法などを細かくお聞きになることがありますが、たまたま当社と会った会社は賛成を得やすい情報開示になる、となっては不公平ですし、当社が企業にアドバイスする一方で、投資家に議決権についてアドバイスするのはおかしいことをご説明しています。

私たちが知りたいのは「取締役会は機能しているのか」ということです。プロキシーファイトや株主提案があったとき等は特にそのような視点は大切で、なにかイシューがあったとき取締役会メンバーに誰がなるか、次の社長は誰になるかという点ですね。

Q: 両コードの導入を受け、企業のコーポレートガバナンスに対する取り組みに変化は生じましたか?

A: コーポレートガバナンス・コードへの対応は、その適用をきっかけに行なわれたというワークの要素もあると思います。しかしそれでもなお、ガバナンスコードには様々なポイントが規定されているので、企業側は議論を行う必要に迫られました。

以前は営業政策などを理由に株式持ち合いを行う企業もありましたが、今日では株式持ち合いは問題であるという認識が顕在化してきています。機関投資家も変化していますが、それ以上に企業側に強い変化があり、株式持ち合いを行った場合、取締役会で報告するということをルール化した会社も見られます。

Q: コーポレートガバナンス・コードは社外取締役を重視しています。社外取締役の実効性などに対する貴社のお考え・評価をお教えください。

A: 今日では社外取締役がいない会社はきわめて少数であり、日本的な会社、特に保守的な企業で意識が変わってきています。

外部取締役の独立性の担保については、言いにくいことを言えるかが一番重要です。

例えば、あくまで例として、ある会社の社長が急に中国での販路を拡大するため中国の会社を買おうと決断したが、社外取締役が今の時期はどうか、と意見したところ社長が考え直し、買収を見送ったその1カ月後に、新聞にその中国企業の倒産の記事が出ていたとします。その時、社長はほっとします。これは世の中にはどこにも露出しませんが、きちんと社外取締役が機能している事例といえるでしょう。

また、取締役会の実効性について注目が集まっています。私は、システマティックな評価プロセスもよいのですが、社外取締役の話を聞くことがまずは簡単な方法かと思っています。社外取締役はガバナンスの主役であり、重要な役割を担っています。

「コーポレートガバナンスの実質」について、言葉だけでなく具体的なエピソードを聞けると「この会社は機能しているな」と実感します。具体的な内容をアニュアルレポートや統合報告書に記載していくことがよいと思います。

■インタビューを終えて

コーポレートガバナンス・コードが施行されてはじめての総会を迎えた企業も多い。ISSを訪れる企業の中に招集通知の原文を渡し添削を依頼したところもあったというお話には苦笑を禁じ得なかったが、日本企業の真面目さがにじみでているエピソードでもあろう。

買収防衛や株式持ち合いに対する企業の対応の変化、取締役会、特に社外取締役のガバナンスへの貢献をどのように示すべきか、についてわれわれも検討しなければならない課題であると認識するインタビューであった。

Book Review

菊地正俊著『良い株主 悪い株主 』(日本経済新聞出版社、2016)

コーポレートガバナンス・コードの適用開始から1年。企業は自社にとっての「良い株主」について改めて考える必要が出てきた。「中長期的視点から経営者とともに望ましい企業経営について考える投資家」が「良い株主」と言えそうだが、筆者は、企業価値最大化の観点からタイムリーに増配や自社株買いのアドバイスをし、経営者と共通する視点を持ち、経営者に経営のヒントやひらめきを与え、経営者の相談役になれる等の株主を「良い株主」の例として挙げる。一方で持合株主は経営者には良い株主であっても、他の株主や社会全体にとってはそうではないと筆者は考える。

本書では株式会社や株主の基本に立ち返るとともに、最近、注目の議決権行使や持合株式に対する主な投資家の方針も解説しているので、企業が投資家対応をする上で参考になるだろう。経営者が「良い株主」と実りのある対話をさらに深め、企業を悪い投資家のターゲットにさせないためのヒントを得られる一冊である。

編集後記

今号は取材から発行まで、時間がかかってしまった。反省(り)/今年注目の特集内容、読者の方のご感想が楽しみです(の)/より具体的なガバナンスの実効性が求められていると感じました(あ)/今後のコーポレートガバナンスを巡る対応に注目したいです(や)/よりよい方向へ今後の企業の変化を期待したい(ひ)/社外取締役の意義の重要性を改めて実感しました(く)

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