「IRInsight」は、IRコンサルティングを専門とする株式会社インベスター・インパクトが最新のIRに関する考察を定期的に提供するレポートです。さまざまな情報源から集めた素材や当社独自の調査に基づいて発掘した情報、長年にわたるIR業務の中から導き出された経験知を幅広くお伝えすることで、お客様ならびにIRに関係する皆様の情報入手の一助となれば幸いです。

今月号は、2012年11月28~30日に開催された全米IR協議会(NIRI)シニア・ラウンド・テーブル会議1の内容を要約してお伝えします。

2012年会議で取り上げられた主要テーマは以下のとおり。

(1) IR活動の分析と評価
IRの専門家や企業の経営陣はどのような方法でIR活動の有用性を測定しているのか。

(2) 最先端のデジタルメディアの中で、IR部門はこれから何を選択したらよいのか
IR担当者(IRO)は、フェア・ディスクロージャー規定の重要性を考慮してソーシャル・メディアの利用には慎重な姿勢をとっていたが、最近ではこの状況が変わりつつある。

(3) 投資家との頻繁な接触によって収集した情報を活用することにより、IROは投資家と経営陣との円滑なコミュニケーションをサポートすることが可能となる
とりわけ、日本企業が社外取締役の数を増やすにつれ、投資家サイドから寄せられた意見を取締役会に集約するうえで、IR部門の重要性はますます高まるものと思われる。

(4) 競争力あるリサーチと情報収集
IR部門においては、投資家や競合相手など様々なセクターから情報を入手し、それを抽出するという役割が徐々に高まりそうだ。ただ、会議の参加者の一人は「確かに情報の量は急激に増えてはいるが、問題なのは、それらを確実に、かつシステマティックに分析できているかということであり、インパクトのある識見に高めることが出来ているかということである」と発言していた。

以下は、上記の4つのテーマのうち、会議で集中的に討議した最初の2つについてまとめたものです。
(1) IR活動の分析と評価―IRの有効性を測定する
NIRIは今回の会議直前に、シニア・ラウンド・テーブル・メンバーと機関投資家に対しデジタルアンケートを実施した。この結果と2011年のものとを比べてみた中で、日本企業にとって有用と思われるものを以下に掲げる。

  • 回答者の70%以上が「自社のIR活動の効果を測定するための指標を定めており、少なくとも年に1回はそれを見直している」と回答した。
  • 回答者の90%近くが「IR活動の成否を自社の株価で判断することはふさわしくない」と回答した。
  • 回答者の約80%が定量的分析、定性的分析の両方を採用しており、定量的方法のみ採用しているのは17%、定性的方法のみ採用しているのはわずか3%にとどまった。

「IR活動の成果を測るうえで5つの最も重要な判断基準は何か」との質問に対し、以下の5つが最も多い回答だった。回答数が最も多い順に、

  1. 投資家との関係がどう変化したか。
  2. 投資家の評価はどうだったか。
  3. 同業他社と比較して自社株の評価はどう変化したか。
  4. 上級取締役(CEO、COO、CFOなど)の定性的評価はどうだったか。
  5. 株主の株式保有割合はどう変化したか。

シニア・ラウンド・テーブル・メンバーに「IR活動の成果を測る判断基準のうち、一つだけ重要なものを選ぶとしたら何か」と聞いたところ、以下のような結果となった。

  1. 投資家の評価はどうだったか。(約20%)
  2. 投資家との関係がどう変化したか。(約20%)
  3. 株主の株式保有割合はどう変化したか。(約12%)
  4. 上級取締役(CEO、COO、CFOなど)の定性的評価はどうだったか。(約12%)
  5. 投資家の認知度調査。(約11%)

機関投資家に対して「企業のIR活動の中で最も重視するものは何か」と聞いたところ、以下のような結果となった。

  1. IROが自社の業務に関する知識を十分に備えている。
  2. IROが自社の戦略、財務目標、その他の重要事項を有効な方法で開示することができる。
  3. IROが取締役会に出席でき、上級取締役の代理として発言することができる。
  4. 的確に反応し、タイムリーに対応できる。
  5. IROが一貫性を維持し、質、量ともに標準以上の成果物を提供できる。

同じく機関投資家に対する質問「企業のIR活動のうち、一つだけ重要なものを選ぶとしたら何か」の回答上位は以下のとおり。

  1. 上級取締役の考え方や経営方針が分かりやすい。
  2. 自社業務に関する知識水準。
  3. 企業戦略、財務目標などの情報を頻繁に発信している。
  4. 透明性が高い。
  5. 的確に反応し、タイムリーに対応できる。
  6. 質、量ともに標準以上の成果物を提供できる。
  7. IROが取締役会に出席でき、上級取締役の代理として発言することができる。

以上の調査結果をもとにシニア・ラウンド・テーブルにおいて意見交換した。出席者の重要な発言は以下のとおり。

  • 「当社の特質と戦略に合致した投資スタイルをとるファンドにターゲットを絞っている。また当社の株式保有率の増減も見極めて対応している」
  • 「当社も株主構成については指標を設定し、当社の株式をもっと所有して欲しい投資家をフォローする。その成果を見るために株主構成のデータを注視している」
  • 「当社株の売買高を注視し、そのデータを決算発表などで公表するデータと比較している」
  • 「主要株主が会社の業績やその他の要因にどう反応するかを見るために、彼らの保有期間加重平均データを観察している」
  • 「投資家説明会の後に、当社が作成した資料が理解しやすかったかどうかを確認し、投資家が欲しているのに発信漏れした情報はなかったか検証する。この調査は証券会社などのブローカーや投資家にヒアリングするのではなく、当社が直接行う。これにより相手の本音を聞き、我々がどう対応したかを記録に残しておく」
  • 「CEOやCFOが投資家相手に個別に説明をする余分な時間が、やがてはIR収益率(IRO)の低下につながるので、よりインパクトのあるIR活動で経営者の時間節約につとめる必要がある」

インベスター・インパクトの見解
グローバル経済が停滞している間にも途上国の成長は続いているため、グローバル市場全体ではすべての財とサービスの成長が今後も見込まれています。こうしたグローバル経済の成長に伴い、資本市場の競争はさらに激化するものと考えられます。

日本におけるIROの課題は、世界の投資家ファンドの関心をいかに引き付け、企業の魅力をいかに見せるかということにかかってきます。言い換えると、IR部門は限られた予算の中で最大限の効果を生み出すためにIR活動を展開しなければならないということです。また、さらに別の見方をすると、IR収益率(RIO)は、低減した資本コストや改善した主要業績評価指標(KPI)の数値をもとに計測することにより、新規のIR手法を導入しても高い水準を保てるのだということにIROの方々は気付いていただきたいと思います。

(2) IR部門が選択すべき最先端のデジタルメディアとは
―ソーシャル・メディアの力を引き出すこと

NIRIシニア・ラウンド・テーブル参加者の発表やコメントなどから判断すると、米国企業はソーシャル・メディアの利用度を徐々に高めているものとみられる。多くのコメントが以下のことを示唆している。すなわち、ソーシャル・メディアをより幅広く利用する米国のIROは、その利用にあたっては、ソーシャル・メディアにコメントがアップされた前であれ後であれ、「明らかになっていない重要な情報は公表されるべきである」というフェア・ディスクロージャー(FD)条項に違反しないよう、顧問弁護士と協力して注意深く行動しているということである。FD条項違反を避けるうえで最も重要なことは、自社から発信するすべての情報を注意深くモニタリングする、ということに尽きる。要するに、ソーシャル・メディアへのアップは、SECに提出するフォーム8Kの代替と考えるべきではないということだ。SECへ報告すべき事項以外の情報であっても、いったんその情報が公開されれば8Kの提出が義務付けられる。IR部門にとって最も正しい選択肢は、SNS部門および顧問弁護士と協力をとりながら行うということ。こうした取り組みにより、より多くの情報資源がIRやコーポレート・コミュニケーション部門に集中することは疑いの余地がないが、それだけの費用をかけるだけの価値があると考える企業が増えていることも確かである。

会議での重要な発言は以下のとおり。

  • 「どうせ読む人はいないのだから情報が少ないに越したことはない、と言うIROがいるという。これはとんでもない間違いだ。真に力量のあるアナリストは、投資するに当たって当該企業の見つけうる限りのすべての情報を読むのだから、企業の側はできる限り豊富な情報を提供すべきである」
  • 「アナリストは、自らのモデルを構築するために、企業から十分に情報提供されることを必要としている。ソーシャル・メディアはそれにぴったりのツールであり、アナリストが企業の投資計画を立てる際に考慮に入れるべき一つのレイヤーである」
  • 「決算資料の配布や買収事案など重要なIR案件を投資家に告知するために、ツイッターを頻繁に更新している。ツイッターに盛り込める内容は限定されるものの、必要最小限の情報を簡潔に伝え、必要な情報がどこで得られるかを知らせることができる」
  • 「ブログでの発信とともに、ビデオログ(Vログ)も始めた。2013年からは2週間に1度の頻度で投資家やステークホルダーに興味のありそうな内容のVログを開始することにしている。7分から10分程度の長さで、忙しい投資家が簡単に内容をつかめるような情報提供を考えている。決算発表、買収事案、新製品情報、CSRの取り組みをはじめ、株主に関心のありそうなトピックを盛り込む」

インベスター・インパクトの見解

最近の投資家およびアナリストへの調査によると、情報入手のためにインターネットを利用する割合が極めて高いことが示されています。一方で、日本企業250社のウエブサイトの英文ページを当社が調査したところ、大いに改善の余地があることがわかりました。多くの日本企業が、自社の成長戦略を世界中の株主や潜在投資家に伝えるツールとして、自社のサイト、とりわけIR関連の英文ページを考慮に入れていないのです。同様の調査をソーシャル・メディアに広げても、同じ結果が得られることは間違いないでしょう。より多くの、かつ優れた情報発信があらゆるインターネットメディアにおいても必要だということです。

特に、早急に改善する必要があるものとして、IRページにおける経営者のメッセージが挙げられます。多くのメッセージの文頭と結語が決まり文句で書かれていて、これを単に英語に直訳しているだけなのです。これでは投資家に対してほとんど、あるいは何も言っていないのと同じです。また多くのメッセージが500ワードに満たないボリュームで、短かすぎます。この長さで企業の成長戦略を語ることは不可能です。IRをより効果的に行うためにも、ウエブサイトのIRページを充実させることを最優先すべきではないでしょうか。

皆様からのご意見をお待ちしております。

1.この会議に参加できるメンバーは、NIRIの会員で、かつ10年以上IR業務に携わっている者に限定されています。当社は、前身のIBI、オグルヴィPRの時代も含めて、1986年から会員として、1996年からはシニア・ラウンド・テーブル会議のメンバーとして、NIRIの活動に参加してきました。IR業界において指導的な役割を徐々に高めてきたこの会議は、IR業務のあるべき姿を追求するために、米証券取引委員会(SEC)やその他の公的機関および民間部門に対して助言を行っています。