今月号と来月号では、2013年12月3日から6日にかけて開催された全米IR協議会(NIRI)シニア・ラウンドテーブルの年次会議で議題となったテーマを取り上げます。この会議に参加できるメンバーは、NIRIの会員で、かつ10年以上IR業務に携わっている者に限定されています。IR業界において指導的な役割を徐々に高めてきたこの会議は、IR業務のあるべき姿を追求するために、米証券取引委員会(SEC)やその他の公的機関および民間部門に対して助言を行っています。今回の会議で主に、①報告スタイルの変化(<統合報告>の増加)、②機関投資家とのコミュニケーションにおける社外取締役の役割、③モノ言う株主への対処、④株主価値最大化への正しい視点、の4点について話し合われました。

<統合報告>への関心がまだ薄い米国

IR分野においてこの数年、グローバルな懸案事項の一つになっているのが、1990年代終わり頃から実施されてきた標準的な年次、または四半期開示の報告スタイルからいかに決別するかということです。そしてこの問題の目指すゴールは、最近の業績、企業戦略、長期的な株主価値創出などの相互の関係性に焦点を当てる、よりよい報告の枠組みを構築することにあります。

この流れの一つとして出てきたのが環境報告書の作成であり、企業がみずからの事業活動が地球環境に与える影響を認識し、それを最小化しようとしていることを機関投資家に納得させるためのものでした。その後、環境報告の章を含むサステナビリティ・レポートやCSR報告書が登場してきました。CSR報告書では、報告対象が拡大し、企業活動の経済社会全体に与える影響や社会的貢献などとともに、企業が株主価値を向上させ、とのようにガバナンスを行い法令や企業倫理を遵守しているかについても盛り込まれるようになりました。

企業の報告活動を強化しようという最近の動きとして、国際的に影響力をもつ国際統合報告評議会(IIRC)は「次の段階として、企業報告は短、中、長期にわたる企業価値創出に関する情報発信を充実させていくべきである」という見解を表明しています。

IIRCの重要な活動の一つは、企業が長期にわたりどのようにして企業価値を高められるかということについて、より詳細な情報を金融資本の提供者に与えるようにすること、と思われます。IIRCによると、<統合報告>のプロセスは「組織が短、中、長期的価値を創出する能力に焦点を当てること。すなわち、簡潔な論旨展開、戦略的思考、将来志向、情報と資本の結合性と相互依存関係を一体的に取り扱い、組織において統合的な思考が重要であること強調すること」。この点についての詳細は、当社ウェブサイトの2013年12月開催「JIRA IRカンファレンス2013、IRにおけるIIRCと当社による合同分科会」の資料をご参照ください(http://goo.gl/4YkEbo)。

当社の調査では、欧州や南アフリカ共和国の企業が、そして最近では日本の企業が<統合報告>に強い関心を示しており(南アでは義務化)、今後の動向が注目されています。米国では果たしてどうでしょうか。

今回の会議では、<統合報告>のプロセスについては議題に上りませんでしたので、シニア・ラウンドテーブルのメンバーに質問を投げかけてみました。その結果、最近の米国の財務報告の傾向などにも照らして分かったことは、意外にも、米国企業の<統合報告>導入が遅々として進んでいないことでした。ある企業のIR担当役員は「他の地域に比べると、米国企業の<統合報告>への関心は余り高くない。自分が予想していた程ではなく、今すぐにでも統合的なアプローチをしようと考える企業は多くない」と言っています。さらに否定的なコメントとしては「<統合報告>はまだ我々の視界に入っていない。『ドッド・フランク・ウォールストリート改革・消費者保護法』などの法規制に基づいた開示義務をきちんとこなすことで精一杯だ」というものもありました。

あるコーポレート・ガバナンスの専門家は「米国内では、<統合報告>についての関心が欧州や日本ほど高くないと思う。但し、情報開示をより良いものに進化させて効果的に行っていけば、IR活動はもっと改善される。米国においても関心が徐々に高まり、今後は広まっていくだろう」と述べています。

日本企業の対応

もはや米国は、あらゆる面で日本の唯一のお手本ではなくなりつつある、という見方があります。<統合報告>に関しても同様なのかも知れません。IRの分野では、リーマンショックの後遺症により、厳格で強制義務のある情報開示が当然のこととして受け止められています。日本における<統合報告>への関心の高まりを見るにつけ、日本企業がこの分野で先駆的な役割を果たせば、世界中の長期的投資家からより有利に資金を集めることができるかも知れません。ただしそれは、よりしっかりした質の高いIR活動を展開すればという条件付きではありますが。インベスター・インパクトではそうした企業の取り組みを最大限にサポートするサービスをご提供できると自負しております。

機関投資家とのコミュニケーションにおける IR 担当役員と社外取締役の役割

NIRIをはじめとする海外の同様の機関での共通認識では、IR担当役員(IRO)の使命は企業価値を高めることにあります。CEOは、企業業績や戦略といった重要事項に関して常に投資家に対する最終的なスポークスマンになります。とはいえ、CEOとしての時間的制約を考えると、そうした要求の全てに応えることは他の重要な業務に差し障りが生じることになりかねません。そこでCEOに代わって、IROが投資家に対する窓口となることがより重要になってきます。

CEOは企業戦略の進捗を監督し、最終的な決定を下します。一方、IROは投資家の疑問や質問に速やかに対応し、回答することにより、企業の投資ストーリーを伝え、投資家の関心をつなぎ留める業務を担っています。近年、IRの役割が高まるにつれ、より上級の管理職がこの職務に就く必要に迫られるケースが多くなってきました。というのも、IROというポジションは会社の戦略と投資ストーリーの詳細まで理解していなければ務まらず、下級職では荷が重いからです。

また、会社の内容に詳しく同業や類似業種での役員経験を持つ社外取締役が、投資家から面談を求められる企業も多くなっているようです。日本の場合、社外取締役の絶対数はまだ限られていますが、多くの企業が社外取締役を取締役会メンバーに加える動きを見せています。社外取締役を指名することにより、企業業績や戦略、長期的価値創出についての正しい視点を持った上級役員経験者や高度な専門家を社内に取り込むことが可能になります。米国では、このことが長い間、社外取締役を指名する主な理由の一つとなっていました。一方、投資家から見ると、このような資質を持つ取締役がいれば投資決定に役に立つということになります。

NIRIシニア・ラウンドテーブルの出席者も指摘するように、企業が社外取締役と投資家との面談を認める場合、それはフェア・ディスクロージャーの範囲内で行われなければなりません。社外取締役が投資戦略策定や企業の投資ストーリー構築に有益となる情報を投資家に提供すれば、企業価値を向上させられるかもしれません。ただし、重要なことは、会社を代表する責任者がその場に同席し、会談の記録を残すことです。企業として、社外取締役はインサイダー情報をリークする恐れがあるということを想定しておかなければなりません。社外取締役本人も、米国をはじめ多くの国ではインサイダー取引によって召喚される可能性があることを記憶にとどめておく必要があります。つまり、慎重な取扱いが求められるということです。

日本企業の対応

日本企業も、社外取締役制度を導入する企業の増加に伴い、こうした問題に直面することになります。すでに、取り組むべき当面の課題として取り上げている企業も見受けられます。モノ言う株主を含め、外国人投資家が上級役員に直接面談を求めるケースも増えてくると思われます。こうした問題の発生を未然に防止する対策の一つとして、IROが投資家の要求に直接応じることができるよう、IR部門の地位を高めることも必要になってくると思われます。さらにもう一つの方法としては、情報開示のシステムを高度化し、どのステークホルダーも同一の情報源にアクセスできるようにしておくことです。

次号では、NIRI シニア・ラウンドテーブルで取り上げられた残り 2 つの議題、「モノ言う株主への対処」と「株主価値最大化への正しい視点」について報告いたします。