IIRC(国際統合報告評議会)は2013年4月16日に「国際統合報告〈IR〉フレームワークコンサルテーション草案1」を発表し、7月15日までの3か月間、ステークホルダーからのコメントを受け付けました。株式会社インベスター・インパクトも意見表明を行いましたので、IIRCに提出したフォーマットと同一形式で以下に再録します(回答原文は英語)。

提案者名: トーマス・R・ゼンゲージ
Eメール: thomas.zengage@investorimpact.com
所属: 専門機関 – その他

組織を代表して回答される場合は以下をご記入ください。

組織名: 株式会社インベスター・インパクト
業種: NA
地域: アジア

第1章: 概要

原則主義要求事項
本フレームワークに準拠して作成した旨を表明するあらゆるコミュニケーションは、太字のイタリック体により表記される全ての原則主義要求事項を適用すべきである(パラグラフ 11-1.12)。

1. 原則主義要求事項に関して追加すべき点、もしくは削除すべき点、変更すべき点はありますか。ある場合、その理由は何ですか。

不明確な専門用語の定義の変更:日本企業を対象にIRコンサルティングを行っている立場として、基本的な用語の定義に関する一つの問題点を指摘しておきます。「<IR>は、組織による、長期的な価値創造に関するコミュニケーションをもたらすプロセスであり、定期的な統合報告書という形で最も明示的に表される」(フレームワーク1.2)という定義がある一方で、「統合報告プロセス(integrated reporting process)」を表す略語があります。こちらは統合報告を行う過程や統合報告という領域全体を示すものですので、インベスター・リレーション(IR)という定まった用語との意味の重複を避けるうえで、また統合報告書そのものと混同しないよう正しく使用するべきだと考えます。

他の形態の報告及びコミュニケーションとの相互関係
〈IR〉のプロセスは、アナリストコール及び組織のウェブサイトにおける投資家向けセクションを含む、関連する全ての報告書及びコミュニケーションに適用されることを意図している。統合報告書は、財務諸表と持続可能性報告書など追加的な報告書及びコミュニケーションへのリンクを含むことがある。IIRCは、確立された報告基準設定主体や企業団体などの他者によって開発された成果物を補完することを目指しており、重複した内容を開発することを意図していない(パラグラフ1.18-1.20)。

2. パラグラフ 1.18-1.20で特定された追加的な報告書及びコミュニケーションとの関連性について同意しますか。

我々の日本での経験から申し上げると、誰が、何を、どのように、の視点でポイントを絞ることを推奨します。
A.誰が:日本では特に、統合報告が主要読者の視点を失わないということが重要です。「統合報告書は、財務資本の提供者に向けて、その財務資本配分の際の評価に資することを目的として、作成されるべきである」(フレームワーク1.6)とあります。フレームワーク草案の全体を読んでみると、この視点はいくら評価してもし過ぎることはないし、フレームワークの表紙にタイトルとして書かれていてさえいいとも思います。
B.何を:日本では「統合報告プロセス〈IRP〉」の意味が狭義に受け取られたり、誤解されたりし、「統合報告書」と混同されることもあります。つまり、日本における統合報告書が、単にコスト削減になるということで、年次財務報告書と従来からあるCSR報告書、サステナビリティレポート、環境報告書を合体させて分厚いレポートとして作成されることがよくあることでも、このことがわかります。統合報告プロセス(integrated reporting process)という言葉(脚注を付けたうえで〈IRP〉という略語を使うことを推奨します)に「reporting」という動名詞を使用しているのは、統合報告が継続的、動的プロセスであることを示唆するものであり、1年間の活動を単に単純で、長過ぎて、理解しにくく、あまりにも雑駁な文章に閉じ込めるものではありません。
C.どのように:その結果、フレームワーク4.4にあるように「統合報告書は簡潔なコミュニケーションとして独立して存在することが求められ、追加情報を必要とするステークホルダー向けの他の報告書及びコミュニケーションとリンクされる」(強調は筆者)ということになります。この場合の「簡潔な」とは、主要読者にとって何が真に必要な情報かということに鋭く焦点を当てる、言い換えれば、出資者が資産配分を決定する際に関心を持つような材料に絞る、ということです。IIRCの「Emerging Integrated Reporting ExamplesDatabase」」では、最優良事例としていくつかの報告書を紹介していますが、その中にあるコカコーラの「サステナビリティ/CSR報告書2012」(http://goo.gl/Eyfws)は決して一冊ですべてを網羅する報告書ではありません。

3. 仮にIIRCが、報告基準作成者などにより作成された指標または測定方法に関する信頼すべき情報源を網羅したオンラインデータベースを作成する場合、どのような参照先を盛り込むべきだと思いますか。

最優良事例:日本企業であれ他国企業であれ、どちらかというと「従来の報告基準作成者」からの情報ではなく、自らの広報活動をより適切に実施できるよう、統合報告の内容、形式などで最優良事例と目されるものの中から必要なものを入手していると思われます。前述の 「Emerging Integrated Reporting Examples Database」が最優良事例にふさわしい報告書を紹介しているのもその一つです。

4. その他
その他、第 1 章に関するコメントがあればお書きください。

日本におけるガバナンス:我々の日本での経験から申し上げると、社外取締役の設置が当然のルールではなくむしろ例外的(東京証券取引所一部上場企業のうち設置企業はわずか35%)である日本の現状からみて、「統合報告プロセス」〈IRP〉を推進することは、ガバナンスの面でも相当の影響力を与えることができると思われます。将来は、取締役会の中で外部役員の果たす役割の一つに、経営戦略を査定し、その戦略が企業価値創造にどんな影響があるかを評価することが数えられることになるべきだと思います。

第2章:基礎概念

資本 (2B項)
本フレームワークでは資本を6つの項目に分類している(パラグラフ2.17)。組織が統合報告書を作成する場合、これらの分類方法をベンチマークとして活用する(パラグラフ2.19-2.21)。また、特定の資本を重要でないと判断する場合はその理由をあきらかにするべきである(パラグラフ4.5)。

5. このような分類方法に同意しますか。また同意する(しない)理由は何ですか。

日本企業のガバナンスに与える効果的な影響:日本においては、統合報告を実施することにより企業経営陣と社外取締役の双方に、(a)「組織が利用する、又は、組織が影響を及ぼす全ての形態の資本(財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)について考慮することを担保するためのベンチマーク(2.19)」として資本モデルを活用すること(b)こうしたファクターをいかに企業価値創造に結び付けるかについて協力して戦略的決定を行うこと、が促進されるものと思われます。前述したように、社外取締役の規定は日本では例外的(東京証券取引所一部上場企業のうち設置企業はわずか35%)な現状では特に。

6. その他、2B項に関するコメントがあればお書きください。

特になし

ビジネスモデル (2C 項)
組織のビジネスモデルは、短、中、長期に価値創造することを目的としたインプット、事業活動、アウトプット及びアウトカムについて組織によって選択されたシステムである(パラグラフ 2.26)。

7. この定義に同意しますか。また同意する(しない)理由は何ですか。

説明上の問題:「多くの『知識』及び『組織の』無形資産は貸借対照表上、捕捉できないが、強固なビジネスモデルには不可欠な場合がある」(フレームワーク2.28)というコメントで示されているように、IIRCで定義され、統合報告書に盛り込まれるべき情報である「ビジネスモデル」の様々な実態が、もっぱら抽象的または定性的用語で説明されているということが問題ではないかと感じています。

アウトカムは、組織の事業活動とアウトプットによりもたらされる資本の内部及び外部的帰結(ポジティブ面とネガティブ面)と定義される(パラグラフ2.35-2.36)。

8: この定義に同意しますか。また同意する(しない)理由は何ですか。

説明上の問題:前問のコメントと同様です。「多くの『知識』及び『組織の』無形資産は貸借対照表上、捕捉できないが、強固なビジネスモデルには不可欠な場合がある」(フレームワーク2.28)というコメントで示されているように、IIRCで定義され、統合報告書に盛り込まれるべき情報である「アウトカム」の様々な実態が、もっぱら抽象的または定性的用語で説明されているということが問題ではないかと感じています。

9. その他、2C項または本フレームワークの内容要素(4E項を参照)の中のビジネスモデルに関 するガイダンスに関するコメントがあればお書きください。

特になし

その他

10. その他、第2章に関して追加すべきコメントがあればお書きください。

特になし

第3章: 基本原則

重要性と簡潔性 (3D 項)
重要性は、報告書の主たる想定利用者の判断に実質的に影響を及ぼすか否かによって決定される (パラグラフ 3.23-3.24)。報告書の主たる想定利用者は財務資本の提供者である(パラグラフ 1.6-1.8)。

11. この重要性に関する定義に同意しますか。同意しない場合、どのように変更したらよいと思いますか。

重要性に関して、付け加えるべき若干の項目があります。
A. 主要な読者:報告書の主たる利用者-財務資本提供者-は、まさにその立場であるがゆえ、対象企業のどの情報が重要であるかを知らない場合があります。それゆえ、報告書作成企によるガイダンスが必要となるのです。大切な点は、企業の経営陣にも社外取締役にも、合報告の重要性に関して忠実義務が課せられているということです。というのも、両者はいすれもより包括的な、より正確な状況を判断できる立場にあるからです。このことは、社外取締が例外的な存在に近い日本においてはとりわけ重要となります。つまり、アナリストや投資家は特定の知見、内部機構、環境要因など財務以外の項目の影響を評価するためには経営陣のサポトを必要としているのです。アナリストと投資家がこれらの項目を評価し、長期的な企業業績予測することが、企業価値創造の道筋を見極めるのにきわめて有効な手段となるのです。
B. 増大するリスクマネジメントの責務:投資家だけではなく、ステークホルダーの中に、自分に関心のある項目が開示されていないと、そのことに不満を持つ向きがあるかも知れませんそうした項目の中には、理論的には企業価値向上に悪影響を及ぼすものであったり、あるいはある種の危険に晒されたり有害事象を引き起こすようなものがある可能性もあります。つまり、る時点で重要性がないと判断されるような一つの情報が、のちに重要な情報に転化することあり得るということです。したがって、危機管理計画の職責を果たすことが経営陣と社外取役双方にとって重要な任務となるのです。
C. 不純物低減の必要性:日本企業にとって、統合報告における重要な課題の一つは、ある種の「純物」(重要でない情報)をCSR報告書やその他の報告書からいかに取り除くかということで。この問題に取り組むためには、投資家の視点から見て何が企業価値創造にとって重要であるということを鋭く見抜く洞察力が必要となってきます。

12. その他、3D項または重要性の決定プロセス(5B項)に関するコメントがあればお書きください。

特になし

信頼性と完全性(3E 項)
信頼性は、強固な内部報告システムや適切なステークホルダー・エンゲージメント、独立した外部保証などのメカニズムによって高められる(パラグラフ 3.31)。

13. 統合レポートの信頼性はどのようにして担保されるべきだと思いますか。

求められる基本的な定義と最優良事例:大切なのは、財務資源提供者が受け入れるかということです。受け入れの可否は、業種によっても、あるいは企業によっても投資家によっても異なります。しかし、会計上の問題や最優良事例など数多くの問題がまだ明確になっていない状況にあっては、前述のIIRCの「Emerging Integrated Reporting Examples Database」が報告書の最優良事例として参照できるでしょう。

14. その他、3E項に関するコメントがあればお書きください。

特になし

15. その他、第3章に関して追加すべきコメントがあればお書きください。

特になし

第4章: 内容要素

16. その他、第4章に関して追加すべきコメント(質問 7~9 の内容要素の中のビジネスモデル(4E 項)に記述した方が適切と思われるコメントも含めて)があればお書きください。

戦略的に考えることの必要性:いくつかの報告書を単に合冊しただけで目的が達成されると信じられていることとは対照的に、いかに論理的かつ簡潔に質問に答えるかについて、フレームワーク4.1の内容要素のA~Gを踏まえながら注意深く対処することが日本企業にも必要となるでしょう(A 組織概要と外部環境、B ガバナンス、C 機会とリスク、D 戦略と資源配分、E ビジネスモデル、F 実績、G 将来の見通し)。

第5章: 作成と開示

ガバナンスに責任を負う者の関与(5D 項)
5D 項はガバナンスに責任を負う者の関与について述べており、パラグラフ 4.5 は、組織に対して〈IR〉の監督責任を有するガバナンス機関について公開するよう求めている。

17. ガバナンスに責任を負う者が統合レポートに関する責任を有している、ということを明記すべきだと思いますか。そう考える(考えない)理由は何ですか。

A. 組織的課題を強調する:ガバナンスの責任の所在を、個人名を明らかにして表記する場合もあるでしょう。しかしそれは、日本においても海外においても、自らの役割は何かということを明記し、あわせて報告の内容や企業側の提案のどこに同意しないかということを明確にして行われるべきです。
B. 日本の経営幹部、社外取締役、IROは協力すべき:日本ではIRオフィサー(IRO)の組織的位置付けを見直さなければならない企業があります。特に米国や欧州市場でリーディングカンパニーになっている場合には、極力IROが経営陣に密着している必要があると思われます。経営陣と社外取締役、IROが統合報告プロセス〈IRP〉について理解し、企業の将来にとって何が重要か重要でないかを判断し、その結果を今後の戦略に組み込む必要があります。

18: その他、ガバナンスに責任を負う者の関与(5D 項)に関して追加すべきコメントがあればお書きください。

特になし

信頼性(5E)
本フレームワークは、組織及び保証実施者が報告書の準拠性を評価するための報告の規準を提供する(パラグラフ 5.21)。

19. 保証を行う場合、統合レポート全体を保証すべきか、もしくは特定の部分を保証すればよいか、どちらだと思いますか。そう考える理由は何ですか。

市場が判断する:おそらく多くの場合、重要性の決定は経営陣と社外取締役に委ねられており、その決定は、経営陣がアナリストやポートフォリオマネジャーと面談した結果得られた結論によって導かれます。こうした場合、信頼性は、その企業の市場での評価というかたちで表現される投資家の判断と密接に関係しています。しかし、たとえば廃液処理量の記述とか、決算報告の信頼性に関わる事実関係や専門的な項目を証明するときは、それにふさわしい外部保証を有効に活用したほうがよいでしょう。

20. その他、信頼性に関して追加すべきコメントがあればお書きください(5E項)。
保証実施者は、本フレームワークが保証エンゲージメントに関する適切な基準を設定しているかどうかについてコメントすることを特に求められている。

特になし

その他
21. その他、第5章に関して追加すべきコメント(質問 11 の重要性決定プロセス(5B 項)に記述した方が適切と思われるコメントも含めて)があればお書きください。

特になし

全体に関して

22. 〈IR〉は不断に進歩するという認識のもとに、本フレームワークが統合レポートを作成する組織に有効に利用され、短・中・長期にわたって価値を創造する組織に関する情報を報告書の利用者に提供する、という観点から、フレームワークの内容として何が適切であると考えるかお書きください。

A. 計画対象期間を延ばす:統合報告を活用することにより、企業、投資家双方が陥りやすい過剰な「短期間主義」を改めることができます。
B. グローバルベンチマーク創出の促進:資本移動がグローバル化しているのに伴い、ステー クホルダーが多国籍企業を評価する際に利用できるユニバーサルベンチマークを発展させることは有益と思われます。

〈IR〉の進歩

23. 仮にIIRCが本フレームワーク以外に〈IR〉に関する資料を作成するとしたら、どのようなテーマのものが最も適切か、3つまでお書きください。またその理由は何ですか。

A.「統合報告プロセス」を〈IRP〉と表記することを強く薦めます。これにより、統合報告の意味する全体の範囲をよりよく指し示し、すでに定着している用語である「インベスターリレーション(IR)」との重複を避け、統合報告書そのものとの混同もなくすことができるからです。
B.もうすでに十分忙しく、情報過多である主要読者を情報の洪水から救うには、「統合報告書は、財務資本の提供者に向けて、その財務資本配分の際の評価に資することを目的として、作成されるべきである」(フレームワーク1.6)点を重視すること。そのことが、企業の簡潔な統合報告書作成の後押しとなります。
C.ガイドラインを提供する際に、企業がいかに統合報告を実施したかの最優良事例のケーススタディに関する資料提供(例えば、IIRCの「EmergingIntegratedReportingExamplesDatabase」)。

その他

24. その他、1~23の回答以外に追加すべきコメントがあればお書きください。

特になし

1 草案全体の日本語版pdfは「IIRCコンサルテーション草案」のキーワードでウェブ検索すれば入手できます。