About admin

This author has not yet filled in any details.
So far admin has created 18 entries.

統合報告への取り組み―RIDEAL株式会社 三代まり子代表取締役に聞く(第2回)

IIRC(国際統合報告評議会)のフレームワーク開発に従事し、その後は数多くの企業の統合報告導入を支援してこられました。支援活動を通じて感じられた問題意識、そして本邦企業の今後へ向けた課題を伺いました。前後半の2回にわたってお届けします。

統合報告書については、どのような問題意識をお持ちでしょうか。

経営者の関与とマテリアリティの特定プロセスに課題を感じています。統合報告書の前提となるのは「統合思考」であり、その下で企業にとって何が重要か、それらがどのように結合して価値創造に至るのか(コネクティビティ)を明確にするのが「統合報告」です。それを形にしてステークホルダーとエンゲージメントするための、あくまでもツールが統合報告書ですが、「報告」という言葉のイメージからどうしてもIRやCSRの専門領域と誤解されがちです。しかし、その前提となる「統合思考」「統合報告」とは経営そのものであり、何がマテリアルであるかの決定は、そのプロセスがトップダウン的であってもボトムアップ的であっても、経営者自身が決めなくてはなりません。統合報告書の作成の過程で、単に縦割りの組織に横ぐしを通すだけでなく、経営者がマテリアリティ決定のプロセスに深く関与することで、企業内の階層に縦ぐしを通し、中長期的にも通用する戦略づくりの基盤を確立することができるのです。この点を実践していくことが、企業の統合報告書作成における大きな課題のひとつです。

おっしゃる通り、多くの担当者の現在の悩みはマテリアリティの特定ではないでしょうか。これはどのように考え、解決することが有効でしょうか。

IIRCののフレームワークでは、マテリアリティ決定プロセスとして4つの段階(関連性ある事象の特定、重要度の評価、優先順位付け、開示情報の決定)を示していますが、これらの内、最初のステージである自社の価値創造に「関連性のある事象の特定」についての理解が特に重要で、ここを間違えると最終結果も自ずと間違ってしまいます。

マテリアリティを特定するためには、まず「自社の長期的に実現したい価値は何か」を特定する必要があります。そしてそれを「どのように実現するか」を明確にし、それに必要な経営資源として、どのような資本が必要で、それをどのように組み合わせるのかを考えていくことになります。実現したい価値というゴールとの関係で、何が本質的に重要かを考える過程で、マテリアルな資本、マテリアルな結合が明確になります。こうした演繹的な考え方を通じて、例えば、お客さま・取引先との関係性を構築する能力がマテリアルであるという企業もあるでしょうし、チームワーク力がマテリアルだという企業もあるでしょう。

さらに、例えば、特定の分野での特許や著作権などの知的資本がマテリアルという企業においては、それを作る人を確保するという観点から「自社が抱える高度なクリエイティブ人材」「有能な人を採用できる企業のブランド価値」「熟練技術者に長く働いてもらえる仕組み」「人材育成のシステム」といった知的資本、人的資本がマテリアルだということになります。様々な資本は相互に関連しているので、価値創造の源泉のそのまた源泉をたどっていくことで、マテリアリティのツリー構造のようなものを作り上げることができるのです。「長期の価値創造へのインパクトが大きい必要不可欠な要素」についての関係性を理解し、重要な要素についてはKPIを設定してモニターしていくことが大切です。無形資産は、その無形であるという特質から、管理することが難しく、放っておいたら失われている可能性もあるだけに、経営者がどこを重要視しモニタリングするかを決めることが、持続可能なモデルを作っていく上でポイントになります。実現したい価値との関係で、様々な資本の中で何がマテリアルであり、それらがどうつながって価値創造を実現していくのかを表現する。それが統合報告の思想であり、現在、オクトパスモデルと呼ばれているIIRCの価値創造モデル図を、IIRCの人たちが「キャピタルモデル」と言う理由もそこにあります。

統合報告や統合報告書は、経営活動そのものであると思いますが、統合報告書で伝えきれないことがあるとすれば、それはどのようなことでしょうか。

統合報告書でカバーできない部分は、熱量だと思っています。その熱量は、対話やエンゲージメントの「場」でしか伝わらない部分ではないかと感じています。また、ステークホルダーとの対話を通じて、今まで見過ごしていた重要な部分があると分かった場合には、それを再度マテリアリティのプロセスに組み込むこともできるという点でも、対話やエンゲージメントの「場」を設けることの重要性がますます高まってきます。それらは一方的な開示では分からないもので、対話をしてこそ分かる部分だからです。「フィードバックを受けてマテリアリティのプロセスを洗 練化させていく」、これが統合報告書の進化にも結果的にはつながると思います。

今後の活動について、ビジョンをお聞かせください。

IIRCのフのフレームワークについての知見をもとに、フレームワークのツールへの落とし込みやKPIを設定する支援を行ってまいりたいと思っています。例えば、価値創造の全体像を示した図を掲載している企業様が多いと思いますが、そこで特定された重要な資本が、他のページにある財務や非財務のハイライト、KPI一覧などの項目との関連性や一貫性がないなど、「情報の結合性」が低いケースが多くあります。恐らく、外部組織が作ったKPIをそのまま流用しているケースが多いのだと思います。ただ、そうした外部組織が作ったKPIは、他社との比較がやりやすくなるという点ではメリットがあるものの、各企業のマテリアリティを考慮して作っているものではないので、企業の戦略との関連性がない、もしくは説明できないものが大半であるという点には注意が必要です。引き続き、他社との横比較がしやすい形式で開示することは重要ですが、大事なのは、他社と違う独自性を示すことです。そのためには、個別の価値創造ストーリーに基づくマテリアルな資源を意識した独自のKPIも設定し、開示する必要があります。企業の長期の価値創造に重大なインパクトを与えているものを特定し、測定してモニターしていく、というような組 織改革に携わり、きちんと経営のPDCAサイクルが回るような形にしていけたらと思っています。


■インタビューを終えて

今回のインタビューでは統合思考、統合報告、そして統合報告書について、概念や日本企業の取り組みの現状についての問題意識をお伺いしました。

統合報告の導入や統合報告書を作成する上で、念頭におくべき様々な視点が指摘されています。皆様のご参考になりましたら嬉しく思います。

統合報告への取り組み―RIDEAL株式会社三代まり子代表取締役に聞く(第1回)

IIRC(国際統合報告評議会)のフレームワーク開発に従事し、その後は数多くの企業の統合報告導入を支援してこられました。支援活動を通じて感じられた問題意識、そして本邦企業の今後へ向けた課題を伺いました。前後半の2回にわたってお届けします。

IIRCに参画された経緯とIIRCにおける役割はどのようなものだったのでしょうか。

2011年、WICI*1からIIRCでの統合報告のフレームワークづくりへお誘いを受けたことがきっかけです。IIRCには、WICIが蓄積してきた研究活動の成果を活用して企業が利用しやすい形でフレームワークをつくりたいという思惑があったのです。

IIRCは、他の既存の開示枠組みの作成意図・背景を理解し、優れた部分を参照しながら国際統合報告フレームワーク(以下フレームワーク)を開発しました。原案はテクニカル・タスクフォース、ワーキンググループで議論され、最終的にカウンシルメンバーが承認する流れで公開されました。

統合報告が生まれた背景やその概念について、改めてご説明ください。

「統合思考」という概念が生み出された背景の1つは、2008年の金融危機です。投資家および企業の双方が短期志向に陥ってしまったこことの反省として、より中長期的な考え方で経営を捉え、情報開示を行うことで、短期志向の是正による信頼回復を目指したのです。「統合思考」にはいくつかの側面があります。統合思考における1つ目の視点は、「短期・中期・長期」や「過去・現在・未来」という時間軸です。2つ目は、「内部・外部」という視点です。特に外部という視点においては、置かれている外部環境によって自社の企業活動がどのような影響を受けるか、逆に自社の事業活動が外部環境にどのような影響を与えるのかの両面から把握をすることが大切になってきます。3つ目は、自社にとって良い情報だけでなく、不祥事などのネガティブな情報も開示していかなければならないとする「ポジティブ・ネガティブ」という視点です。これらの視点は、企業を包括的に捉える上で重要な視点であるといえます。

日本企業が統合報告を導入する上で、現在感じておられる重要なポイントと課題についてお考えをお聞かせください。

「統合思考」「統合報告」「統合報告書」という3つの言葉があります。「統合思考」や「統合報告」は目に見えない部分が多いため、形ある「統合報告書」の作成に焦点が当てられ過ぎていることに課題があると思います。

「統合思考」においては、企業の経営資源である様々な資本を俯瞰して捉える必要がありますが、これが難しいようです。というのも、これまで資本といえば、財務資本が中心だったからです。そこで、フレームワークでは6つの資本(財務資本、製造資本、人的資本、社会・関係資本、知的資本、自然資本)を例示的に挙げ、様々な経営資源を包括的に捉えるための視点を提供しています。資本ごとの開示を求めるものではなく、これらをどのように組み合わせて製品やサービスを提供し、価値を創造するのかを示すことが求められています。IIRCの前CEO、ポール・ドラッグマンさんは「情報の結合性がなければ統合思考がないとして判断される」とおっしゃられていますが、この経営資源をどのように組合せ、価値につなげるか、その結合性(コネクティビティ)をわかりやすく示すことが難しいのだと思います。

もう一つ苦労するのが、マテリアリティです。統合報告におけるマテリアリティは、「企業の長期的価値創造の観点から重大な影響を与えるものは何か」という観点で考えます。その際、企業の持続性を左右する長期的な価値創造にも焦点を当てると、おのずと社会的課題を経営課題としてとらえることが必要になります。IIRCの価値創造では、「自社にとっての価値」と「他者にとっての価値」という2つの概念がありますが、マテリアリティを明確にし、その切り口から両者がどのように関連づけられるかを整理することが重要です。

また、「統合報告」を実践する上で報告書は1つのツールであり、報告書を作ることは、そのファーストステージです。報告書作りで終わってしまう企業が多いですが、それではいけません。株主や投資家などとのエンゲージメント、対話の場で報告書を活用し、フィードバックを得て、さらに内容を充実させていくプロセスが「統合報告」の実践の重要な要素です。先日来日したノボ ノルディスクのスザンヌ・ストーマー副社長は、「今はエンゲージメントに力を入れるセカンドステージにシフトしている」とおっしゃっていました。報告書作成の先にある「エンゲージメント」の場での統合報告書の活用が必要なのです。

――次回は統合報告書制作についての課題を伺います。


*1 WICI:The World Intellectual Capital/Assets Initiative 2007年に発足し、ステークホルダーの関心が高い知的資産 /資本や、KPI(Key Performance Indicator/主要業績・価値評価指標 )に関する開示の改善を目指す組織。

Book Review

日経エコロジー (編著) 『ESG経営 ケーススタディ20 』(日経BP社、2017)

昨今GPIFがESGで優れた日本企業を構成銘柄とするインデックスの運用を、運用機関に委託開始するなど、従来の環境対策やCSR活動に加えて、社会課題の解決や生物多様性に配慮した経営を強化する動きが広まっています。本書はESG経営のヒントとなるケーススタディ集であり、先進的な環境経営に取り組む企業の事例が20社紹介されています。

特に経営主体で持続的成長のためのESG戦略が推進されている特徴的な事例として、コニカミノルタ、コマツ、積水化学工業があげられます。例えばコニカミノルタの「グリーンマーケティング」は、自社で培ってきたコスト削減のノウハウを活かし、省エネサービスから自社の事業拡大に結び付けようとする取り組みです。またそれらの取り組みを組織的に行っていくための目標設定として、同社は中期環境計画で「事業価値」と「環境価値」、環境計画と財務目標の両面からKPIの設定がされています。社会課題と事業活動を一体としてとらえるESG経営の具体的な事例集として、参考となる1冊です。

編集後記

世界で発行される統合報告書の1 /4が日本企業といわれている。統合報告への取り組みには、価値創造への日本企業の高い意識が伺える。(り)/セカンドステージへのシフトに来ていると認識を新たにしました。(の)/企業の長期的な価値創造、という目的を見失ってはいけないと感じました。(あ)/「報告書は1つのツール」というのが印象的でした。(ま)

IR 責任者とアクティビスト

海外の上場企業における近年の最重要問題として、アクティビストへの対処があります。アクティビストの脅威にさらされた日本企業は、従来は少数でしたが、世界的なアクティビスト増加傾向のなか、今後は増加すると考えられます。

アクティビストの世界的な増加:情報提供会社アクティビストインサイト社によると、2016年上期、全世界で公にアクティビストの標的になった企業数は17%増の473社で、うちおよそ63%で要求が受け入れられました。2016年6月時点でアクティビストの投資額は約29兆3,150億円1に上っています。

米国での増加傾向:米国企業では、2016年8月4日までに、前年同期(214社)2とほぼ同水準の207社に対しアクティビストによるキャンペーンが実施されました。

日本への到来:アクティビストインサイト社によると、2016年7月までの7カ月間でアクティビストの標的にされた日本企業は、前年の8社から13社になりました。その中には、サード・ポイントによるセブン&アイ・ホールディングス、ファナック、スズキ自動車、IHI、ソニーへの投資やグラウカス・リサーチ・グループ(GRG)による伊藤忠商事への投資等、注目すべきケースも見られました。

日本でも増加見込み:日本にはアクティビストのキャンペーンを助長する要素があり、今後件数が増加すると見られています。
✓ アクティビズムを後押しする枠組み:213の機関投資家が日本版スチュワードシップ・コードの受入れを表明(2016年9月現在)し、機関投資家と日本企業のエンゲージメントが増加傾向にあること、コーポレートガバナンス・コードにより投資家の信頼が高まったこと、JPX日経400インデックスにより日本企業のROEが明らかになったこと
✓ 株主構成の変化:外国人株主の増加、持ち合い株式の減少等
✓ 企業業績の低迷:過剰なキャッシュの保有:資本コスト以下の株主還元、国際水準より低いROE、非主力事業の継続、帳簿価格以下の取引を行っている企業の割合等

日本におけるアクティビストキャンペーン:
サード・ポイント社によるキャンペーンに対する報道は概ね好意的でした。一方でGRG社は、伊藤忠商事の財務諸表に誤った情報が含まれていると主張し、同社に反対する姿勢を取りました。GRG社は同社の株式に対し「ストロングセル(強い売り)」を推奨し、株価は50%程度下落すると示唆しました。また、GRG社は調査のために独立した委員会を指名することを提言しました3

アクティビズムが企業価値に与える影響:アクティビスト投資家が企業価値に与える影響には、2つの考え方があります。

好ましいアクティビズム:コロンビア大学ビジネススクールの調査報告書は、「批判的なアクティビストの介入により、長期的な業績を犠牲にして短期的な利益が求められるという証拠は見出せない4」としています。
 このグループに属するアクティビストは、よいコーポレートガバナンスや長期的な戦略の重視、中長期的に企業価値を向上させる企業改革等を望む、好ましい意図をもつアクティビストと考えられます。
好ましくないアクティビズム:コロンビア大学・ロー・アンド・エコノミクス研究報告書は、次のように述べています。「アクティビスト・ヘッジファンドによるエンゲージメントは重要な外部性を生み出している。標的となった企業と、標的にはならなかったもののアクティビストが投資を思い留まっている企業の双方において、長期投資(特に調査研究投資)が大幅に縮小した5」。
 この分野のアクティビストは通常、わずかな株式を保有し、自社株買いや増配といった方法で短期的・中期的に株価を上昇させる方法を助言します。GRG社のような空売りをするファンドは、伊藤忠商事の場合のように、彼らの株主への配当を確保しようと試みます。

アクティビズムに関するセルフチェックリスト:
✓ 企業の業績基準。競合他社に比較したときの売上、コスト、収益性、成長、資本コスト、ROE、ROA等
✓ 現在の株式の時価総額。競合他社との比較
✓ 株価がアンダーパフォームしている場合の対策

アクティビストに対応するための提案:
✓ 好意的で長期的な意図をもつ投資家から、短期目的の投資家までアクティビストを連続的に分類
✓ 株主構成の分析結果に基づき、アクティビストの視点で自社の脆弱性を分析
✓ 分析の後、自社のアクティビストへの最も効果的な対応策を検討

日本企業へのヒント:
日本でもアクティビストキャンペーンの件数は増加すると見られています。日本企業は、自社の強みと弱みを正しく理解し、適切な投資ストーリーや、投資家の懸念に対し十分かつ信頼を得られる回答を準備すべきです。
 特に、長期志向のアクティビスト投資家は、マネジメントがこれまで耳にしたことがない方法で、業績や戦略について価値ある評価を示すことでしょう。アクティビストへの対応策を準備すること、それはすなわち、IRプログラムにより一層注力すること、既存投資家と潜在投資家の双方へ積極的にアプローチすることが必要ということにほかなりません。


1) www.activistinsight.com US$1.00=¥110で換算
2) https://www.sharkrepellent.net/
3) https://glaucusresearch.com
4) レブチャク、ルシアンA・ブレイヴ、アーロン・ジァン、ウェイ著、The Long-Term Effects of Hedge Fund Activism(ヘッジ・ファンド・アクティビズムの長期的な影響)(2015年6月)、ハーバード・ロー・スクール・ジョンM・オーリン・センター討議資料 No.802; コロンビア・ロー・レビュー; Vol.115, 2015年、1085-1156ページ; コロンビア・ビジネス・スクール研究論文 No.13-66
5) コーヒー、ジョンC・パリア、ダリウス著、The Wolf at the Door: The Impact of Hedge Fund Activism on Corporate Governance (戸口の狼: 企業ガバナンスへのヘッジ・ファンド・アクティビズムの影響) (2015年4月)、 コロンビア・ロー・アンド・エコノミクス調査報告書 No. 521

Book Review

足達 英一郎、村上 芽、橋爪 麻紀子 著『投資家と企業のためのESG読本』(日経BP社、2016)
booki
環境(E:Environment)、社会(S:Society)、ガバナンス(G:Governance)の3つの要素を示すESGが注目される昨今、本書では現代におけるESGについての解説が網羅的に行われている。ESG投資とはそもそも何かについて、ESGという言葉を生み出した国連について、SRI・CSR・サステナビリティとの違いから解説された後、近年どういった流れにてESGが投資手法、概念として注目され、広がってきたかについてわかりやすく解説がなされている。また特徴的なのは、投資家がESGの情報をどういった着眼点で重要視しているかについて、「コーポレートガバナンスを重視する投資家」、「社会課題起点のキャッシュフローを重視する投資家」、「ダウンサイドリスク回避を重視する投資家」、「ユニバーサルオーナーシップを重視する投資家」の4つの類型に分けて解説がなされている点である。投資家視点におけるESG投資について、類型別に述べられていることで現代におけるESGの実態が理解しやすい。現在のESGについてトレンドを捉える上で、是非一読したい一冊である。

編集後記

さまざまな投資主体によって市場と企業経営の健全性が保たれる、ということですね。(り)/アクティビストへの対応も、結局はIRプログラムへ注力することが王道だとわかった。(の)/まずは相手を知り、自社を知る。戦略的なIR活動の実践がより重要になっている。(い)/必ずしも「アクティビスト=短期」とは限らないという報告書は面白いと感じました。(あ)/好ましいアクティビズムと好ましくないアクティビズムの分類が興味深いです。(や)

投資家のエンゲージメントの最前線 ― みさき投資株式会社 中神代表取締役に聞く

みさき投資株式会社
代表取締役社長
中神康議様

大学卒業直後から約20年弱経営コンサルティングに従事した経験を生かし、2005年からエンゲージメント投資を開始。2013年にみさき投資株式会社を設立。数々のエンゲージメント成功事例を生み出す。近著に『投資される経営 売買される経営』など。

book

「働く株主」としてエンゲージメント投資を行い、長期にわたって事業戦略や経営改革を支援するみさき投資株式会社。今号では、エンゲージメントにおける取り組みや、企業と投資家のあるべき関係について伺いました。

Q.投資先企業の選定基準をお教えください。

A.われわれは、市場の評価が本質的価値より低い企業に対して、長期にわたる投資を行い、投資対象企業の絶対価値を上げることに貢献したいと考えています。相対比較ではないので、例えばPERが何倍とか、次の四半期のEPSがなどということは、気になりません。対象企業が、どの程度頑健な障壁に支えられ、創出されるキャッシュフローがどうなっており、絶対価値はどうなのか、それに対して市場評価はどうなっているかということです。投資先企業も、「持続的に成長する会社か」「われわれが価値向上に貢献できるか」という視点で選んでおり、具体的には「b」「p」「m」の3つの基準で判断しています。

まず、ビジネスがしっかりしていないと安心して長期投資できないので、ビジネスのクオリティーは高いか、障壁はあるかというのが最初の選定基準「b」になります。次に、どんなビジネスも人(p)がいかに経営しているか、に尽きるところがあるので、「p」が優れている会社に投資をしたいというのが2番目の基準になります。

さらに、われわれは「働く株主」として本源価値を上げることに貢献したいと思っているので、bもpもいいけれど、経営手腕や経営手法(m)を磨けばもっとよくなる会社を選ぶというのが3番目の基準です。

長期投資は対象企業を熟知する必要があり、投資先企業の選定に当たっては、最初の段階で、例えば、30年ぐらいの業績を調査するほか、北米などで出されている競合企業のアニュアルリポートを全て読みます。加えて、投資先企業のアニュアルリポート、有価証券報告書、社史もチェックします。

Q.開示資料のチェックはどのような観点でおこなわれるのでしょうか。

A.特定の項目にこだわるわけではありませんが、行間からにじみ出てくるものがあり、読めば読むほど会社の個性が伝わってくるところがあります。

アニュアルリポートや有価証券報告書は特に美辞麗句がちりばめられたものになる可能性が高いと思いますが、もっと泥くさい、自分の言葉やこだわりのある言葉が使われていると、その会社のこだわりが見えてきます。経営とは細かいディテールにこだわったものであると同時に、コンセプチュアル、概念的なものでもあると思います。開示資料で言葉にこだわっている企業は、他と違うことを考えていることが伝わるので、そういうところをよく読んでいます。有価証券報告書は10年を単位として調べています。

社史では、ビジネス(b)のオリジナリティやその会社が作られた経緯が記載されているので、対象企業のDNAが理解できます。また、会社の歴史が50年、70年と経ていくにつれ、マネジメントの変遷も見ることができます。例えば「ずっと技術系の人が社長になる会社」といったことです。さらに社史では、人(p)に関する過去の経緯やカルチャーの源流が見え、mについては、例えば非常に早い時期から店頭公開をするというパブリックカンパニーマインドが見えたりします。

Q.企業と投資家の理想的な関係について、具体的なエンゲージメントにおける取り組みを交えつつお聞かせください。

A.株主はbやpに影響は与えられませんが、業種横断的、国境横断的な性質を持つ経営のクオリティー(m)についてはかなり貢献できると思っています。例えば、ピジョンという会社は、少子化によって成長に限界があると評価されていました。しかし、人口の増加する中国やアジアにおいても、そういえるでしょうか。そこで海外での成長戦略を一緒にやりましょうと提案した結果、海外売上比率が15%ぐらいしかなかったものが現在50%くらいになっていますし、時価総額も10倍以上になりました。

経営者と投資家はもっと学び合えると思っています。経済のエンジンは企業で、企業のエンジンは経営なので、経営こそが経済のエンジンです。企業を成長させていくために、どのように資金を投資するか。私がやっていることは、昔の銀行がやっていたことに近いと思うのですが、それを投資家の立場でやりたい。

「働く株主」とはそういう意味かなと考えています。経営に少しでも貢献できるような投資家でありたいということですね。

■インタビューを終えて

みさき投資の事例が、ハーバード大学のビジネススクールで取り上げられ、講義をなさると伺いました。企業に対して、昔メインバンクが行っていたことを、投資家として行い、企業成長を実現されてゆくのだ、とのお話しは、とても印象に残るものでした。著書『投資される経営 売買される経営』の中でも触れられている「みさきの公理®」で選別される企業は15社とか。厳選投資で企業成長を支援されようとの情熱に強い感銘を受けました。

Book Review

名和高司著『成長企業の法則 世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016)

稼ぐ力を取り戻す―この言葉を最大のメッセージとした安倍政権の成長戦略。しかし、しっかりとした中身の充実がなければ本当の成長はない、と考える著者は本書を通して「稼ぐ力とは何か」を語っている。

本書では、2000年から2014年までのデータを基に、売上高成長率、企業価値(株価)成長率、平均利益率の3つの指標を用いて21世紀の成長企業=Global Growth Giants(G企業)を抽出し、それら企業の共通する項目を「LEAP(跳躍)」というフレームワークに落とし込んでいる。著者によれば、これらの企業は「堅牢性」や「しぶとさ」といった静的な特性と「変容性」、「身軽さ」といった動的な特性を持ち、これらを「事業モデル」、「コアコンピタンス」、「企業DNA」、「志」というレベルで兼ね備えているとしている。ランキング内外の企業をケーススタディに取り上げつつ語られる本書は、400ページを超える大作ながら読みやすく、日本企業がグローバルで存在感を示すためのヒントが詰まった一冊である。

編集後記

メインバンクが担っていた役割を、投資家として担おうという意気込みと情熱が伝わってくるインタビューでした(す)/中神社長のインタビューでは、事前の詳細な企業調査に圧倒されました(の)/長期投資家の考え方の一例を知るよい機会になりました(あ)/「働く株主」という言葉が、投資家としての姿勢を表現していて印象的でした(や)/経営に貢献できる投資家という視点が興味深かった(ひ)/エンゲージメントにおける具体的事例が印象的でした(く)

議決権行使助言会社の視点で見た2016年のコーポレートガバナンス―ISS 石田猛行エグゼクティブ・ディレクターに聞く

インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ
エグゼクティブ・ディレクター
石田猛行様

コーポレートガバナンス・コードが適用されて1年経過しました。コーポレートガバナンスを巡る企業・機関投資家の対応にどのような変化が生じたか、今後どのような方向に向かうべきか、議決権行使助言会社の視点で問題意識を掘り下げます。

Q: スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードの適用を受け企業の貴社に対する対応に変化は生じましたか?

A: 日本的な会社の方がよりガバナンスコードの影響を受けていると思います。上場企業はガバナンスコードに規定されている内容を取締役会で話さなければならなくなっており、その意味でコーポレートガバナンス・コードの意義は深いといえます。

来社される企業との話の質が変わり、以前は話が噛み合わなかった企業とも最近は議論がしやすくなってきました。株式持ち合いに関する議論もできますし、買収防衛策をやめるという会社も増えてきました。

取締役や監査役の選任議案について、取締役や監査役の独立性をどう見ますか、という質問を多く受けますが、事前にわれわれが賛成、反対を伝えることはありません。そこであくまで一般論をお話しします。企業の総務や株主総会担当の方は、招集通知の表現方法などを細かくお聞きになることがありますが、たまたま当社と会った会社は賛成を得やすい情報開示になる、となっては不公平ですし、当社が企業にアドバイスする一方で、投資家に議決権についてアドバイスするのはおかしいことをご説明しています。

私たちが知りたいのは「取締役会は機能しているのか」ということです。プロキシーファイトや株主提案があったとき等は特にそのような視点は大切で、なにかイシューがあったとき取締役会メンバーに誰がなるか、次の社長は誰になるかという点ですね。

Q: 両コードの導入を受け、企業のコーポレートガバナンスに対する取り組みに変化は生じましたか?

A: コーポレートガバナンス・コードへの対応は、その適用をきっかけに行なわれたというワークの要素もあると思います。しかしそれでもなお、ガバナンスコードには様々なポイントが規定されているので、企業側は議論を行う必要に迫られました。

以前は営業政策などを理由に株式持ち合いを行う企業もありましたが、今日では株式持ち合いは問題であるという認識が顕在化してきています。機関投資家も変化していますが、それ以上に企業側に強い変化があり、株式持ち合いを行った場合、取締役会で報告するということをルール化した会社も見られます。

Q: コーポレートガバナンス・コードは社外取締役を重視しています。社外取締役の実効性などに対する貴社のお考え・評価をお教えください。

A: 今日では社外取締役がいない会社はきわめて少数であり、日本的な会社、特に保守的な企業で意識が変わってきています。

外部取締役の独立性の担保については、言いにくいことを言えるかが一番重要です。

例えば、あくまで例として、ある会社の社長が急に中国での販路を拡大するため中国の会社を買おうと決断したが、社外取締役が今の時期はどうか、と意見したところ社長が考え直し、買収を見送ったその1カ月後に、新聞にその中国企業の倒産の記事が出ていたとします。その時、社長はほっとします。これは世の中にはどこにも露出しませんが、きちんと社外取締役が機能している事例といえるでしょう。

また、取締役会の実効性について注目が集まっています。私は、システマティックな評価プロセスもよいのですが、社外取締役の話を聞くことがまずは簡単な方法かと思っています。社外取締役はガバナンスの主役であり、重要な役割を担っています。

「コーポレートガバナンスの実質」について、言葉だけでなく具体的なエピソードを聞けると「この会社は機能しているな」と実感します。具体的な内容をアニュアルレポートや統合報告書に記載していくことがよいと思います。

■インタビューを終えて

コーポレートガバナンス・コードが施行されてはじめての総会を迎えた企業も多い。ISSを訪れる企業の中に招集通知の原文を渡し添削を依頼したところもあったというお話には苦笑を禁じ得なかったが、日本企業の真面目さがにじみでているエピソードでもあろう。

買収防衛や株式持ち合いに対する企業の対応の変化、取締役会、特に社外取締役のガバナンスへの貢献をどのように示すべきか、についてわれわれも検討しなければならない課題であると認識するインタビューであった。

Book Review

菊地正俊著『良い株主 悪い株主 』(日本経済新聞出版社、2016)

コーポレートガバナンス・コードの適用開始から1年。企業は自社にとっての「良い株主」について改めて考える必要が出てきた。「中長期的視点から経営者とともに望ましい企業経営について考える投資家」が「良い株主」と言えそうだが、筆者は、企業価値最大化の観点からタイムリーに増配や自社株買いのアドバイスをし、経営者と共通する視点を持ち、経営者に経営のヒントやひらめきを与え、経営者の相談役になれる等の株主を「良い株主」の例として挙げる。一方で持合株主は経営者には良い株主であっても、他の株主や社会全体にとってはそうではないと筆者は考える。

本書では株式会社や株主の基本に立ち返るとともに、最近、注目の議決権行使や持合株式に対する主な投資家の方針も解説しているので、企業が投資家対応をする上で参考になるだろう。経営者が「良い株主」と実りのある対話をさらに深め、企業を悪い投資家のターゲットにさせないためのヒントを得られる一冊である。

編集後記

今号は取材から発行まで、時間がかかってしまった。反省(り)/今年注目の特集内容、読者の方のご感想が楽しみです(の)/より具体的なガバナンスの実効性が求められていると感じました(あ)/今後のコーポレートガバナンスを巡る対応に注目したいです(や)/よりよい方向へ今後の企業の変化を期待したい(ひ)/社外取締役の意義の重要性を改めて実感しました(く)

日経アニュアルリポートアウォード受賞企業に聞くー三菱重工業株式会社

mitsubishi-juko

統合レポートに移行後、2年続けて「日経アニュアルリポートアウォード」で高い評価を受けた三菱重工業株式会社。今号では、三菱重工業が統合レポート「MHI REPORT」を作成するにあたって重視している点や制作における創意工夫に迫ります。

Q. 御社の統合レポートの位置づけを統合レポート移行の経緯を踏まえつつお聞かせください。

A. 統合レポート作成の目的は、「この星に、たしかな未来を」というCIステートメントの実現に向けて、当社が技術や製品を通じて日本の産業・経済の成長や発展に貢献している姿を簡潔に伝えることです。会社案内、CSRレポート、アニュアルレポートという、それぞれ視点の異なる冊子がありましたが、どれも最終的に読者に伝えたいメッセージは同じですので、これらの要素を融合したレポートが必要と考え、統合レポートを発行しました。読者として想定しているのは、投資家、株主、取引先、近隣社会、学生など当社に関心をもつすべてのステークホルダーです。

現在、統合レポートは、経営陣が他社のトップに対し当社の案内をするときや、営業・各事業部が対外的に当社を説明する際の資料としても活用されており、会社案内としての役割も果たしています。

Q. 多岐に及ぶ用途で活用できるツールにするため工夫されている点を、編集方針を中心にお聞かせください。

A. 当社の統合レポートは長期投資家をはじめとするマルチステークホルダーに対し、一貫性のあるストーリーで会社の向かう方向性を伝えることを重視しています。そして、表面的な理解で終わることのないよう、単なる製品カタログやデータ集としてまとめることは避けています。

伝えるべき内容として、まず普遍的なメッセージがあります。日本の近代産業の誕生とともに生まれ、その歩みとともに発展・停滞し、そしてグローバルに発展を遂げていくという当社の歴史などがそれにあたります。当社の強みは130年に及ぶ歴史の中で蓄積した技術基盤ですので、毎年変わらぬメッセージとして伝えています。

さらに、その年に伝えるべきテーマも織り込んでいます。2015年は新事業計画策定の年に当たりますので、これを主軸に据えました。事業面ではMRJが注目を集める一方で、リスク要因として懸念する向きもあることから、MRJを特に説明すべきと考えました。組織面では監査等委員会設置会社への移行という変化を受け、ガバナンスの透明性を重点的に訴求する必要性を感じました。そこで「MHI REPORT 2015」では、中期経営計画・MRJ・コーポレートガバナンスの3つのテーマを中心に、見やすく分かりやすく説明することに留意しました。

このような誌面構成を通じ、当社の統合レポートは最初から最後まで通読することでその状況を理解できるように作成しています。IIRCのフレームワークやGRIのガイドラインについては参考にする程度にとどめ、さまざまなステークホルダーに分かりやすく伝えることを優先しています。

Q.冊子全体のページ数や各記事の分量について留意されている点がありましたらお聞かせください。

A. 統合レポートを作成するに当たり、薄すぎず厚すぎず中身が頭に入りやすいということ、持ち運びの簡便さという観点から、まずはじめに50ページ程度というページ数を上限として定めました。

各記事の分量は50ページの枠内でバランスよく収まるように構成しています。データ類も統合レポートのストーリーと関連性のあるもののみ掲載し、財務諸表や細かいデータは別冊やWebに譲りました。財務・非財務ハイライトには比較的詳細なデータを掲載していますが(12〜13頁・上図参照)、これも単なる数値の羅列ではなく、当社の価値創造モデルや直近の変化がどのような形で業績などの結果につながっているのか、分かりやすく表現する点を意識しました。

当社の統合レポートは伝えたいことのエッセンスを煮詰めて作成しています。ですが、Webとの住み分けを行っていることもあり、50ページに収めることに苦労は感じていません。情報を押し込めるのではなく、等身大の当社の姿を50ページで率直に表現することを第一に考えて作成したのが当社の統合レポートです。

■インタビューを終えて

三菱重工業の統合レポートは最初に50ページというページ数を上限として設定している点に特徴がある。その構成も、マルチステークホルダーに幅広く対応するという観点から、IIRCやGRIのガイドラインに縛られることなく、伝える必要性があることを一連のストーリーとしてまとめている。ページ数・誌面構成の双方の面において、わが道を行くスタイルが確立されているといえるだろう。

Book Review

ロバート・G・エクレス=マイケル・P・クルス著(北川哲雄監訳)『統合報告の実際』(日本経済新聞出版社、2015)

コーポレート・ガバナンス元年と言われた2015年、ステークホルダーとの「質の高い対話」を促すツールとして、アニュアルレポートは統合報告の形態を強めてきている。

本書は、まず第1章から第4章で、統合報告の歴史から、その後の発展やそれぞれの立場による取り組みなど、読者に現在の統合報告の基礎知識を示す。第5章「マテリアリティ」からは、具体的に統合報告に掲載すべき内容について論じている。秀逸なのは第7章の調査研究であり、国際統合報告〈IR〉の基準に照らし、124社の統合報告書を分析し、6つの資本と7つの内容要素、そして7つの独自の評価項目について採点を行った結果として優秀な企業名を記載している点である。最後に、第9章および第10章では、統合報告の今後について語られている。

アニュアルレポートから統合報告への移管を検討されているIR担当者の方に歴史から課題、今後までを1冊で網羅している本書のご一読をお勧めする。

編集後記

次回は議決権行使についてです(リ)/前号についてのコメントを複数いただき嬉しい限りです(乃)/統合レポート発行の目的も企業により様々なことを再認識しました(あ)/統合報告の取り組みとして参考になりました(や)/伝えたい内容が明確なことが重要だと思いました(ひ)/ページ数を先に設定するという編集方針が新鮮でした(く)

日経アニュアルリポートアウォード受賞企業に聞くー中外製薬株式会社

Untitled

2月7日に発表された「第18回日経アニュアルリポートアウォード」でグランプリに輝いた中外製薬株式会社。今回の特集では、中外製薬とのインタビューを通じ、統合報告書作成にあたって重視した点を生の声で届けます。

Q. 御社の統合報告書は、会社をあげての取り組みを踏まえて作成されたものという印象を受けました。全体的な作成方針を、統合報告に踏み切った経緯を交えつつ教えてください。

A. 2002年のロシュとのアライアンス以降、当社はがん領域で圧倒的な地位を獲得するなどの成果を上げてきました。しかし、成果を導くに至った強みは必ずしも社内に浸透していませんでした。そこで、2009年に「トップ製薬企業推進プロジェクト」が立ち上がり、当社の強みを全社的に共有する取り組みが始まります。目に見えない強みを洗い出し、「96の強み事例集」として社内全体で可視化しました。その強みを含め、非財務情報を読者に分かりやすく伝えることを目的に作成したのが、2012年版の最初の統合報告書です。

「96の強み事例集」は、患者さんに対する価値や競合優位性の観点から25のカテゴリーに整理・分類され、最終的に7つの強みに集約されていきます。

統合報告書2013年版以降では、患者さんの目線に立って7つの強みを表現することに力を注いで作成しています。

また、25の強みカテゴリーや7つの強みは現在、統合報告書のみならずTVCMや新聞広告といった対外広報にも展開され、当社のブランディングにも貢献しています。

Q. 「強み」を重視して統合報告書を作成されたとのことですが、2012年版から2014年版にかけて表現に関する面で改善された点がありましたらお聞かせください。

A. 2012年版の作成に当たっては、製薬業界や医薬品に詳しくない一般の方にも分かりやすい、平易な表現を心がけました。2013年版では真の統合報告として、情報の結合性を重視し、現在の強みから将来の価値創造までを記載することに留意しました。また、96の強みを25のカテゴリーと7つの強みに整理し、ロジックを整えることに注力しました。

2014年版では、過去に積み重ねた実績と現在の強みに連続性をもたせることで、将来の、中長期的な企業価値向上に対する説得力を増すことに力を注ぎました。

このように「強み」の表現方法は年々改善していますが、その根底にあるのは、「すべての革新は患者さんのために」という事業哲学であり、2012年版以来、統合報告書全体を通底する理念として位置づけています。

Q. 御社の統合報告は年々進化していますが、進化を支える制作体制についてお聞かせください。

A. 当社では、経営陣がステークホルダーとの対話や投資家に情報を分かりやすく説明することに対し積極的に取り組んでいますので、統合報告書の改善・向上にも意欲的です。統合報告書を作成したのち、経営陣によるレビューヒアリングが設けられ、翌年版の改善に向けた示唆を受けることができます。また、統合報告書の作成にあたっては、制作を統括するチームが社内の各部署に改善に向けた提案を行い、よりよい誌面を作成しています。また、緻密なスケジュール表を作成し、作業日程に遅れが出た場合に即座に反映させる仕組みを整えています。これにより、ある工程に遅れが生じた場合、代わりに別の工程を進めることが可能になり、スケジュールの後ろ倒しを防ぐことができるようになりました。

さらに、当社の統合報告書が3年連続して日経アニュアルリポートアウォードを受賞したことを受け、社内での認知度が向上し、協力体制も整備されてきています。複数の部署から統合報告書に掲載するトピックの提案を受けるようにもなってきました。

最後に、モチベーションの高い制作会社の選定と、志を同じくした効果的な協働も重要なポイントです。当社の提案に対してよりレベルの高い形で応えてくれることで、それをベースに議論を繰り返し、より良い統合報告書作成に向けた相乗的な成果が生まれています。

このような全社的なフィードバックや制作会社との連携により、当社の統合報告書は投資家のみならず、社内研修や採用活動にも活用される網羅性の高いツールになりました。今後ともより完成度の高い統合報告書の作成に向け、全力を尽くしていきます。

■ インタビューを終えて
中外製薬の統合報告書は、会社内での縦横の境目のないプロジェクトを通じて企業価値を創造し、共有していくという過程によって生み出されたものである。統合報告書も全社的なフィードバックを通じて年々進化しており、社内外での相乗効果が生まれている。このような会社をあげての長期間にわたる取り組みが第18回日経アニュアルリポートアウォードのグランプリ獲得という成果になって表れたといえるだろう。

IR updateから

原文:Managing Sell-Side Analyst Coverage(IR update FEBRUARY 2015 pp. 11-12)

アナリストによるコンセンサス予想が投資家に与える影響力は大きい。従って、大企業はアナリストが確実な根拠に基づくコンセンサス予想を形成できるよう努めるべきである。企業を取り巻くアナリストのなかには、不十分な調査に基づき当を得ないレポートを書くアナリストもいる。企業はこのようなアナリストに対し、インベスター・デイの開催や経営陣とのミーティングを通じて企業理解を促している。

しかし、そのすべてが 成 功しているわけではなく、IROは時に会社のストーリーを理解していないアナリストによる誤ったコンセンサス予想に直面する。その対策として、次期四半期や通期見通しなどの情報を充分に市場に提供し、アナリストの調査不足や誤った認識を防ぐ企業も見られる。その企業の経営者は、「最優先事項はバイサイドの自社に対する理解の促進である。そこで、当社はアナリストが高水準のレポートを作成できるよう注力している」という。

編集後記

企業価値を高めようとする情熱がよいレポートに繫がることが実証された(リ)/トレンドの先をとらえた情報提供を実現します(乃)/ “伝わる” 情報発信の大切さを感じました(ま)/刷新された新IRInsight、今後ともよろしくお願いします(あ)/インタビュー記事がとても参考になりました(や)/優れたIR活動は “一日にしてならず”(ひ)/特集や海外誌を通じて私も刺激を受けました(く)


IR Insight_2016.2

好ましいコーポレート・ガバナンスとIR

インベスター・インパクトでは、日本の主要な企業のIRプログラム策定をはじめ、アニュアルレポート、統合報告書といった開示ツールの制作を中心とするサービスを提供している。一連のサービスの提供を通じて、当社は企業の開示の動向を把握しており、クライアントから国内外の同業他社の開示状況との比較を依頼されたり、ベストプラクティスについてアドバイスを求められたりすることがある。本号では、最近の開示の主なトレンドを振り返り、批判的な検証を行い、提言を試みる。

重要性を増すコーポレート・ガバナンス情報の開示

最近の日本における開示の1つの重要なトレンドとして、企業のコーポレート・ガバナンスへの関心の高まりとコーポレート・ガバナンスに関する情報の増大が挙げられる。その理由としては、「コーポレートガバナンス・コード」の導入や海外投資家の影響、日本企業の稼ぐ力の強化を目的にコーポレート・ガバナンスの重要性を強調する「アベノミクス」の存在などが挙げられるが、これまでにどのような成果があったのだろうか。

コーポレートガバナンス・コードが求めるものと方向性

長期間にわたる専門家やパブリックコメントによる審議を見ると、日本のコーポレート・ガバナンスには明確なコンセプトと方向性が示されたと言える。

「本コードにおいて、『コーポレートガバナンス』とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
…(中略)…(本コード)が適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。1

日本のコーポレート・ガバナンスの価値についてコンセンサスが形成されたと言えるだろう。

コーポレート・ガバナンスに関するKPIへの影響

コーポレート・ガバナンス報告書及び一般社団法人日本取締役協会(JACD)による調査報告書2によると、東京証券取引所第一部上場の企業のうち、2015年7月時点で少なくとも1名の社外取締役を選任している企業は昨年比20%増の94.7%となっている。また、東京証券取引所の定める独立取締役を1名以上選任している企業は、約26%増の87.7%となっており、社外取締役および独立取締役の人数が上昇傾向にあることは、コーポレート・ガバナンスへの関心の高まりを示すものといえる。東京証券取引所の上場企業3,464社の社外取締役・独立取締役の人数をみると、社外取締役は2014年から2015年の間に1,794名増加し5,563名に、独立役員は1,837名増加し4,155名となった。

当社が行ったインタビューによると、日本企業に投資を行う外国人株主は、コーポレート・ガバナンスのベストプラクティスを支持しており、外国人投資家がコーポレート・ガバナンスに与える影響には注目すべきものがある。2015年3月期現在の上場企業3,565社における外国人株主の比率は31.7%へと上昇している。その中でも特に注目すべきなのは、JACDの日本企業調査によれば、外国人株主比率が10%未満の企業では18.3%の企業が独立取締役を設置していないのに対し、30%を超える企業では独立社外取締役を設置していない企業は6.2%にすぎないことである。

コーポレート・ガバナンスが日本企業の情報開示に与える影響

これまでのアニュアルレポートやウェブサイトのコーポレート・ガバナンスのセクションは簡潔に記載されていた。2010年ごろの記載は、2ページ程度の長さに留まるのが一般的だったが、2015年においては、自社のコーポレート・ガバナンス体制の説明に10ページもの分量を割く企業も見られるようになった。このように、日本ではコーポレート・ガバナンス体制の枠組みをより詳細に説明しようとする傾向が見てとれるといってよいだろう。
2010年頃のコーポレート・ガバナンスのセクションでは、基本的な事項のみ記載することが一般的であった。記載される主な内容は企業のガバナンスへの考え方(経営の監督と業務執行の分離など)やガバナンス体制(取締役会や執行役員会、ガバナンス委員会など)、アドバイザリーコミッティーの活動状況などであった。

しかし、最近では、ガバナンスの枠組みにおけるそれぞれの役割などについてより詳細な説明がなされるようになってきている。また、近年では、コーポレート・ガバナンス体制(監査役やガバナンス委員会設置による取組みなど)の説明や、写真・経歴の掲載などを通じたより詳細な取締役の紹介、取締役会への出席状況、役員報酬、社外取締役(独立取締役)の選任理由、更に、恐らく最も重要な情報として、社外取締役や独立取締役の目から見たガバナンスやそれに対する自らの貢献、改善に向けた提言などを盛り込んだインタビュー記事も掲載されるようになってきている。

マネジメントの対応の変化

2015年に日本版コーポレートガバナンス・コードが導入されるまで、特に2010年以前は、社外取締役や独立取締役の選任やコーポレート・ガバナンスに関する積極的な情報開示に対し若干の抵抗があった。その背景には、企業経営はその企業・業界での豊富な経験がなければなしえず、社外の人間は企業経営に貢献できないばかりか、迅速な意思決定の障害にさえなり得るという強い懸念があった。当社のコンサルティングでは、コーポレート・ガバナンスに関する情報開示拡充への提言や独立取締役の選任に関する質問は、実施が難しいという理由で否定的に受け止められることが多い。また、財務注記に掲載されるリスクマネジメント情報について、「紋切型」ではないより充実した内容へ改善する提案も同様に、好意的に受け止められてはいない。

コーポレートガバナンス・コードと「日本再興戦略」下での日本企業の稼ぐ力を取り戻すこととの関連は、一段と速い速度で強まっていると考えられる。JACDの会長は2015年の挨拶で、「できるだけ監督と執行を分離する旨の内容が記載されたことは、コーポレート・ガバナンスの考え方、理解において、大変大きな進歩だと考えられます」と述べている。

社外取締役インタビューの深耕

最近では、多くの企業が開示資料に独立取締役のインタビューを掲載するようになってきた。インタビュー記事を分析したり、記事作成の支援をしたりすると、インタビューには多くの特徴があることがわかる。その1つは、独立取締役が、自らの考えを他の取締役会メンバーに対してのみならず、投資家を中心とした各ステークホルダーとも積極的に共有することが可能な点である。もう1つの特徴は、社外取締役が取締役会に社外の視点を導入するという自らの役割に集中して取り組める点である。インタビューへの回答を通じ、独立取締役は、自らの責任領域に関する取り組みを経営陣の監督に活かすことができる。

インタビュー記事をコーポレート・ガバナンスセクションの原稿としてまとめる際に問題になることは、どのような質問を行うべきか、役員やIRオフィサーがどの範囲まで回答すべきかという点である。以下に質問の事例を取り上げる。

  • 独立取締役に就任されましたが、ご自身の役割をどのように捉えていますか。また、その役割を遂行するにあたってのお考えや計画はどのようなものでしょうか。
  • 稼ぐ力の回復や事業のグローバル化は多くの日本企業が直面する課題です。このような課題に対し、どのように取り組まれれていますか。
  • 独立取締役としての役割を果たす上で、ご自身のビジネス等でのご経験がどのような形で役に立つと考えていますか。
  • 中期的な株主価値や企業価値を高めるために、独立取締役にどのような役割が期待されているとお考えでしょうか。

今後の課題

コーポレート・ガバナンスや経営の透明性は以前にも増して急速に進捗し、グローバルスタンダードに近づいているが、JACDの指摘するように、「コーポレート・ガバナンスが機能するよう、…(中略)…なすべきことは、山積しており」ゴールまではまだ時間がかかるものと思われる。今後の課題としては、取締役会による監督と業務執行の分離、独立取締役や監査・監督委員会の役割の明確化などが挙げられるだろう。

コーポレート・ガバナンスの進展は決して簡単な道のりではない。スポーツになぞらえつつ説明してみよう。スポーツにおいて公平な判断を下すために審判が必要とされるように、業務執行を担う執行役員にもいわば審判役としての独立取締役が必要となる。独立取締役は執行役員の業績を客観的な観点から綿密にレビューする。今日のほとんどの日本企業では、取締役会における独立取締役の割合は高くない(事実、直近のデータによると、社外取締役の占める割合は11分の2にすぎない)。多くの場合、社内取締役は執行役員も兼任しており、スポーツ用語でいう「Call the shot」(采配を振るう)状態にある。稼ぐ力の向上とマーケットからの高い評価を重視するのならば、コーポレート・ガバナンスの開示もその優先度を高くあげて取り組むべきである。

IRの機能とコーポレート・ガバナンス情報の開示

コーポレート・ガバナンス情報の開示への注目が高まるにつれ、企業サイドもコーポレート・ガバナンスの質が自社株式の市場価値に影響を及ぼすという認識を新たにした。継続的な企業価値向上を図るため、株主や投資家に対して、①業務の執行と監督機能の分離、②取締役会に対する監査、③独立取締役の役割の明確化に向けて会社が前進していることを常に伝え続けることが必要であろう。

日本企業への提言(インプリケーション)

上記のような分析に基づき、日本企業は以下のような行動を取るべきであると提言したい。

  • コーポレートガバナンス・コードが実施された今日、海外機関投資家は、日本企業が企業戦略の焦点の明確化や企業価値の増大、株価ボラティリティの軽減をどの程度実現するのかについて非常に興味を抱き、注目もしている。
  • 企業は、社外取締役や社外監査役が忌憚なく重要な質問や洞察、推奨事項を提示することでもたらされる有効性を最大化する必要がある。社外取締役や社外監査役の評価は、毎年、四半期ごと、あるいは取締役会ごとなど持続的に行われるべきであり、そのことが、持続的なエンゲージメントや実行的な議論、パフォーマンスへの集中の促進に繋がる。
  • 決まり文句のような文章から脱却することが戦略的なコーポレート・ガバナンスに関する情報開示の質を高めることに貢献する。統合報告書やアニュアルレポートに記載されたガバナンスフレームワークにおける各パートの役割や社外取締役・社外監査役の選任理由に対しての説得力ある情報、社外取締役・社外監査役自身の示唆に富んだ洞察などがまさにそれにあたる。

執筆 代表取締役会長 C・テイト・ラトクリフ

1 http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/code.pdf
2 http://www.jacd.jp/news/odid/cgreport.pdf

IR のグローバル動向:アクティビズムとコーポレイト・ガバナンス―2014/2015 NIRI シニア・ラウンドテーブルから (1/2)

今月号と来月号では、2014年12月3日から5日にかけて開催された全米IR協議会(NIRI)シニア・ラウンドテーブルの年次会議で議題となった主なポイントの概要を取り上げます。この会議に参加できるメンバーは、NIRIの会員で、かつ10年以上IR業務に携わっている者に限定されています。IR業界において指導的な役割を徐々に高めてきたこの会議は、IR業務のあるべき姿を追求するために、米証券取引委員会(SEC)やその他の公的機関および民間部門に対して助言を行っています。今回の会議では、アクティビスト投資家、アクティビズムとコーポレイト・ガバナンスの関係、発行体である企業と機関投資家とのコミュニケーションの進展、重要性の高まる持続可能性や他の非財務報告形態、機関投資家の意見をCEOやCFO等の取締役会メンバーへ報告するに際し、ますます重要性が高まるIRオフィサー(IRO)の役割等について討議されました。

増大するアクティビズム投資家への対応

2013年と同様に、2014年のNIRIシニア・ラウンドテーブルで最も重要な話題は、投資家の中で比率が高まっているアクティビズムにいかに対応するかということでした。米国の調査によると、資産配分、取締役の地位といった課題に関して経営方針を変えさせようとする、いわゆるアクティビストの会社数は、2009年以来、急速に増加し、50社以下だったものが、2014年上期だけでも200社近くにまで増加しました1。同様にアクティビストに分類される機関投資家が管理するファンドの金額も急速に拡大しています。

調査によれば、アクティビズムの拡大傾向は弱まる気配がありません。それどころか回答者の89%は、今後もアクティビズムは増えると見ています2。また、回答者の約63%は、投資家が否定的に感じる点はアクティビストにとっては最も重要で、魅力的な標的の特徴であるとし、69%はこうしたアクティビストの標的になっている企業に投資することによって、アクティビズムを支持すると答えています。

今回の会議の出席者やNIRIのウェブセミナーの参加者からは、以下のようなコメントがありました。

  • 「重要なのは、アクティビズムが機能しているということだ。アクティビストに分類されなくても、アクティビズムを支持する機関投資家はしばしば見られる。だから、アクティビストによる一連の攻撃が上手くいきそうになると、より幅広い投資家が、攻撃されている会社の株式を買うことがある。」
  • 「アクティビスト投資家やアクティビストによる一連の攻撃の件数は増え続けている。この10年で1,000件にも上る。」
  • 「アクティビストによる一連の攻撃が成功する要因には、彼らがツイッター等のソーシャルメディアを積極的に活用していることもある。通常のメディアもソーシャルメディアもどちらも重要性が高まっている。」
  • 「今年はアップルやeBayといった大企業でさえ、アクティビストに攻撃された。もはや、企業規模は防御にならない。」
  • 「アクティビストの一連の活動は、米国から海外へと拡大している。」

企業がアクティビズムの標的となってしまう要因は何かという点についての討議では、会議参加者から以下のような意見がありました。

  • 株価が低迷:多くのアクティビストは、同等の株式に比べて相対的に株価パフォーマンスが悪い会社を探し求めるバリュー投資家である。
  • 資産配分に課題:アクティビストは企業がどのように資産配分をしているかについて詳しく調べている。彼らは、「どこにキャッシュを使っているのか。」、「R&Dに資金を使い過ぎていないか。また、R&Dの費用対効果について透明性のある評価をしたくないのではないか。」といった質問をする。
  • 報酬:業績が悪い時でさえ、役員報酬は高過ぎるのではないか。
  • コーポレイト・ガバナンス:取締役会は、戦略立案において適切に貢献し、短期的および
    長期的な視点から、株主利益のために会社の舵取りを行っているか。

聞くところによると、アクティビスト投資家は、上記のような課題のある、またはそのような課題が起きそうな様々な企業を洗い出します。次に、そうした企業を調査し、通常は数年にわたって追跡調査します。その中には、こうした潜在的な投資先企業の周辺にいる顧客や取引先、退職者、競合会社といった関係者へのインタビューも含まれています。

中長期的な企業価値向上に関心のある、企業にとって好ましい意図をもつアクティビストは、一般的に対象とする企業の経営者へ、徹底した調査に基づく資料を提示して助言を行います。もし企業が助言を聞きたいと思うのなら、建設的な議論への道が開けるかもしれません。一方、通常、短期的な利益を目指す「敵対的」なアクティビストは、自社株買いや配当の増額等、短期から中期で株価を上昇させる助言だけにしか関心がないのかもしれません。そして短期目標が達成されれば、彼らは保有株式を売却します。

アクティビストに対処するために企業はどのように備えたらよいのでしょうか。2013年NIRIラウンドテーブルについての当社レポートでは、同会議出席者の助言を以下のように報告しています。

  • 自社の株主の中にアクティビストが存在しているかどうかを把握するため、株主判明調査を行う。
  • 好意的な意図の有無を基準に投資スタイルを特定し、好意的な意図をもつ投資家を敵対的投資家と区別して分類する。
  • アクティビストの観点に立って、自社の脆弱性を分析する。
  • アクティビスト投資家への最も効果的な対応策を講じる。

さらに2014年シニア・ラウンドテーブルの参加者からは、以下のような提言もありました。

  • アクティビストが掲げる問題の本質を特定する。問題がメディアに報道される前に、妥当な解決策を打ち出せるか。
  • 会社の代弁者として取締役を指名し、アクティビストが提示する問題に関して、広報面での取りまとめ役とする。
  • 最も聡明なアドバイザーを起用する。
  • 可能な妥協案を探る。ある程度、譲歩することにより、早期に和解できるか。
  • アクティブファンドのみならずパッシブ(インデック)投資家等、全ての機関投資家と定期的なコミュニケーションを維持する。
  • 継続的にアクティビズムの動向を把握する。
  • 何より、準備しておくこと。アクティビストと直接に対応した経験のある会議参加者によると、アクティビストの攻撃にさらされている企業は、適切な対応ができるように準備しておかなくてはならないと強調した。最初とそれに続く対応が、その後の意思疎通の方向性を決めてしまうので極めて重要だと言える。

アクティビズムとガバナンスの関連

コーポレイト・ガバナンスに関する問題は、しばしばアクティビストの攻撃の原因になります。一例として、ある有名な映画会社は、創業家が取締役の地位やその他経営面でいまだに強い支配力を保持しています。過去、その会社は取締役の定年を72歳と決めたにもかかわらず、創業家のメンバーは役員定年を過ぎても会社に留まっていました。IRに近い組織にいたこの発言者によれば、この会社の取締役会は散漫になり、投資家が同社株価への評価を引き下げる要因となりました。

この発言者は、こうした状況がどのように対処されるべきだったのかという点についても見解を示しました。まず、取締役会は、投資家の認知度調査も含め、独立した組織に株価低迷の理由を分析させるべきでした。そして取締役会はその結果を客観的に検討し、適切に行動すべきでした。しかしながら、このような状況において取締役会は関連する課題を先送りし、ファンドマネージャーやアナリストとの面談を通じて直接、投資家に対して取締役会の構成上の自分たちの立場を説明するという道を選びました。

また、アクティビストは、取締役会に役員を送り込むよう要求してくることがあります。これに対して企業は、アクティビストの見解を注意深く分析した上で、アクティビストを説得し、納得させることが必要です。こうして、実際にアクティビストの代表者が取締役会に名を連ねることなく、企業はアクティビストからの攻撃を拒むことができます。なお、投資家向けには、取締役からIRのみならず広報活動全体を代弁できる担当者を指名するとよいでしょう。これはアクティビストに対して融和的な方法で機能するのみならず、情報の流れをコントロールし、株主価値の維持向上という企業目的を達成するため、経営者に正しい視点を与える効果があります。

結局のところ、コーポレイト・ガバナンスの役割は、企業経営において規律を行使することにあります。一方で、IRは企業価値の成長を促進し、株主への事業活動の報告を通じて企業経営を改善し、それにより株主の評価に対して規律を与える行動といえます。日本のコーポレイト・ガバナンス革命が進展し、企業がガバナンスを実施するのであれば、企業価値を向上する上で、IR活動はより一層、重要な役割を果たしていくことになるでしょう。

執筆 代表取締役会長 C・テイト・ラトクリフ

1 IPREO: “Activism, Ready or Not”
2 FTI Consulting

IRとコーポレートガバナンス

今回は、IR活動とコーポレートガバナンスの関連について検討を行います。

IRは、自社の経営活動を株主に報告することにより企業の成長と経営改善を促す活動であり、株主による企業への評価は経営への規律付けと考えられています。一方、コーポレートガバナンスもまた企業が「よい経営」を行い、「よい企業」となるために成長と経営改善を促す企業行動と言えます。IR活動とコーポレートガバナンスは相互に関連する活動であり、これからのIR活動は、経営情報の発信と株主との対話という役割から、企業と株主、そしてステークホルダーとのエンゲージメントを司るものへと変化していくと予想されます。

1. コーポレートガバナンスの定義

コーポレートガバナンスは、経営者への規律付けが中心であり、経営者への報酬契約、会社の組織構造、およびIRというそれぞれの側面から議論されることが多く、企業組織論、企業金融論など複数の分野にわたって検討が進められています1。企業のモラルハザートを防ぎ、さまざまなステークホルダーに対して、企業価値の最大化を実現する経営を行うことがコーポレートガバナンスの本質であり、企業をどのように規律付けるかということが議論されています2。ここでは、コースやウイリアムソン3に代表される「企業や組織の経済学」を使って、コーポレートガバナンスの問題について検討することにします。

コーポレートガバナンスが必要とされるようになった理由については、次のようにまとめることができます。資本取引では企業と投資家との間に契約関係がないことから、経営者はリスクを逸れた存在となっています。一方で、投資家は経営者に経営を委託せざるを得ず、機会主義から発生する経営者のモラルハザードやエージェンシーコスト*の問題にさらされています。資本取引を行う投資家にとって、エージェンシーコストを削減するためにどうするか、ということが課題となります。そこで経営を規律付けするために、経営に対するモニタリングとインセンティブの組織化、企業の出資者と経営者との資本取引関係をどうするかということについて検討する必要が生じました4。経営者と投資家では情報の非対称性が認められ、加えて限定合理性**により企業経営のモニタリングとインセンティブの組織化は困難な課題です。この課題を企業と組織の経済学では、「組織的解決」(=内部コントロール)と「市場的解決」(=外部コントロール)を取り入れることにより、コーポレートガバナンスの組織化というモデルを使って解決しようとしました。言い換えると組織的解決とは、取締役会を通じたモニタリングとインセンティブの組織化としての発言のメカニズムであり、市場的解決とは、流動化された市場のメカニズムを利用することで解決を図ろうとするものです。現在、この2つのメカニズムをどのように組織化するかということが重要な課題となっているのです。

2. 経営者への規律付けとして誰の利益を守るべきか

ところで、企業を構成する経済主体は株主だけではありません。企業のステークホルダーには株主、従業員、債権者、取引先企業、組織、政府、自治体、企業の位置する拠点を囲む地域住民などが含まれます。それにも拘わらず、「誰が企業を支配するのか」、「企業は誰のためにあるのか」といった議論があります。しかし、例えば株主のものであるとする一方の理念に従うと、これを覆すことが他方の理念となってしまいます。「株主主権とする経営、株主利益を目的とした経営」が成立するなら、「企業のガバナンスを経営者が行う企業は経営者の利益を目的とする」ことになり、「従業員がガバナンスを行う」のであれば企業は「従業員利益を目的とする」ことになります。これは全く現実的な議論ではありません5。重要なことは、企業経営の規律が低下し、企業業績が低迷した場合において規律を高め、業績向上を図るコーポレートガバナンスとは何かということを追求し、ガバナンスを具体的に実践していくことです。

3.コーポレートガバナンスの機能(実践的なコーポレートガバナンス)

数年前まで、株主利益を追求するシェアホルダー型のガバナンスと従業員や顧客利益を図るステークホルダー型ガバナンスシステムのどちらが経営規律を高め、企業業績の向上を達成できるかということが議論の的でした。しかし、アメリカにおける不正会計であるエンロン事件、日本企業における90年代の業績の低迷や最近のオリンパス事件など日米のガバナンスシステムが空洞化された事実が示すように、シェアホルダー型ガバナンスが有効である場合もあればそうでない場合もあり、それはステークホルダー型のガバナンスシステムにおいても同様です。最終的にはガバナンスが機能しているかどうかについて、企業の信頼性や競争優位性をどのように担保しているのか、との観点から判断されなければなりません。この議論は昨今のアベノミクスとも整合的で、政府がコーポレートガバナンスに力を入れるのもこのためと考えられます。

しかしながら株主の利益を確保するために経営者を規律付けすることが重要とされる主張もあり、その要旨をまとめると以下の3点となります。

  1. 法的な契約関係から見るとステークホルダーの中で株主の権利が一番犯されやすい。株主以外のステークホルダーは通常、企業と何らかの取引関係にあり、それらの関係諸法規で保護されるのに対して、株主は残余請求権者に過ぎないため、出資に対する支払いが最後となる。
  2. 株主以外のステークホルダーは企業と何らかの取引関係にあり、多くの場合不明朗な関係に陥りがちであり、透明性を損なう可能性が高い。その結果、他のステークホルダーの利益を損なうことになりかねない。これに反して、株主が債権者、従業員、取引先企業の立場を兼ねているということがないのであれば、株主利益の保護は不明朗な関係を排し、透明性を確保する上で役立つと考えられる。
  3. 長期的な株主の利益を確保しようと考えるのであれば、指標としての株主価値は企業組織が全体として生み出す長期的経済価値をもっとも反映しやすい指標であると推測される。さらに企業価値を反映した指標である株価は、汎用的なものとして誰でも観察できるため、透明性の確保や統治行動の目的が明確になるという点で優れている。

結局この主張も、株主を主体とするガバナンスが全てのステークホルダーの利益を保護することに繋がるということを基盤とした考え方であり、株主のみの利益を語っているものでないことは明らかです。

4. コーポレートガバナンスシステムとしてのIR

企業がその資産・資本を効率的に活用し、高い企業価値を生成し、それを維持することこそが優れた経営者の役割であるということについて、異論をとなえる人はまずいないでしょう。前項までの議論を見るとき、株主や投資家の役割には、経営者がそうした役割を果たしているかどうかをモニタリングし、市場的解決ばかりを図るのではなく、対話を通じて経営者の意思決定に影響を及ぼすことも含まれていると言えそうです。それはどのように実現されるでしょうか。株主・投資家は、企業から発信された情報で、経営者が経営資源(人材、資本、資源)を有効にリンクし、価値創出を創出しているか、という点に着目してモニタリングしています。しかし投資家がめざす価値創出は企業経営者の絶えざる経営改善によって達成されるものであり、モニタリングを行うだけで達成することはできません。企業価値創造は、企業経営者と株主が積極的にエンゲージメント(目的を持った対話・関与)を深めていくことではじめて実現できるのです。このような投資家と企業とのリレーションは、日常的にIR活動として行われていますし、エンゲージメントとは、コーポレートガバナンスがめざす経営改善と資本の効率的な配分の実現を目的とする活動です。まさに、IRこそが、企業が経営改革を進めるため株主が役割を全うできる質の高い情報を市場に提供するものであり、IRによって経営者と投資家が企業価値創造についてのエンゲージメントを深めることにより、コーポレートガバナンスを有効に機能させる活動である、ということができるでしょう。これからのIR活動は、経営情報の発信と株主との対話という役割から、企業と株主、そしてステークホルダーとのエンゲージメントを司るものへと変化していくと予想されます。そして日本のコーポレートガバナンス改革は、企業が実践的なコーポレートガバナンスを実施し、企業価値向上を実現する上でIR活動が一層重要な役割を担うということを強く示唆しています。

12月1日のセミナーではこの点について、さらに議論を深めてゆきたいと考えています。

執筆 代表取締役副社長 角里香

* 経営者(経営委託者)が株主(オーナー)の意向にそぐわない意思決定を行うことによるコスト、および経営者が株主よりも情報優位にあることを利用して、自己の利益を高めようとすること(機会主義)によって発生する株主側のコスト。

** 将来の不測の事態をすべて予見したり、最適な行動を計算に入れたりすることは出来ないという人間の知的能力の限界を指す。

1 小佐野 広(2001 年 7 月)『コーポレートガバナンスの経済学』日本経済新聞社

2 大村敬一、増子信(2013年5月)『日本企業のガバナンス改革』日本経済新聞社
3 どちらも新制度学派の経済学者。コースはイギリス生まれの、アメリカの経済学者。1991年に「企業の本質」でノーベル経済学賞を受賞。ウイリアムソンは取引費用経済学の権威であり、209年にノーベル経済学賞を受賞した。
4 宮本光晴(2004 年 3 月)『企業システムの経済学』新世紀
5 宮本光晴(2004 年 3 月)『企業システムの経済学』新世紀